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【けいおん!続編!!】 水の螺旋 (第三章・DIVE) ・上

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「うん、分かった」
 憂が慣れない手つきでパスワードを入力する。大学になると、レポートの作成などでパソコンは必須のアイテムになるが、憂はまだ大学に入学したてなので、操作には慣れていないらしい。
 それでも憂はパスワードを入力し終わった。エンターキーを押すと、唯のアカウントがログインした。デスクトップに戦隊モノの画像が表示された。
「…唯、こういう趣味だったのね」
 和が呆けたように云った。憂もこの時ばかりは苦笑いを浮かべた。
 デスクトップの画像については置いといて、とりあえず和はデスクトップに表示されているファイルを見ていった。すると、画像ファイルがいくつかあることに気がついた。
「憂、ちょっとこれ、開けてみてくれる?」
 和は一番上の画像ファイルを指さして云った。そのファイルの名前は『Southern』とあった。憂はそのアイコンにポインターを持っていき、マウスをダブルクリックする。少し読み込みに時間がかかった後、画像が表示された。
「これは…」
「何?和ちゃん」
「何かの検出結果みたいね。『Southern』というファイル名から察するに、DNAのどこかの配列を検出したものらしいわ」
 写真には、白の下地にバンドが黒く形成されていた。レーンは4つに分かれており、一番左端がマーカー (分子数や塩基数などの定量のために用いる様々な分子量のDNAをミックスしたサンプル) 、そのすぐ右隣には、レーンの上の方に濃いバンドが検出されている。さらに、その右のレーンにも、同じようなパターンのバンドが見られていた。そして、一番右端のレーンにはそこまで濃いバンドは見えず、薄いバンドがいくつか見えているが、おそらく非特異的なバンドだろう。
「憂、ちょっとデスクトップに戻ってくれる?」
「うん」
 憂はいったん今開いている画像ファイルを閉じた。
 さっきのファイルの下にあるファイルを見ると、これも画像ファイルであった。ファイル名は『RT-PCR』とあった。PCRとはpolymerase chain reactionの略であり、特異的なDNA断片を増幅できる分子生物学的な実験法のことだが、その前に書かれているRTには二通りのとらえ方がある。ひとつはreverse transcriptase (逆転写酵素)、もうひとつはreal time。前者の意味合いで行われるPCRは、DNAから転写されて作られたRNAなんかを逆転写酵素を用いてDNAに戻してから増幅する実験法。また、後者の意味合いで行われるPCRは、時間ごとの増幅の度合いを見ることができ、定量などに優れた実験法である。どちらの意味合いかは、開いてみたら分かるかも知れない。
「この画像ファイルも開いてもらえないかしら」
和はさっきの画像ファイルの下にあるファイルを指さした。憂はそのファイルをダブルクリックした。
 画像が表示される。今度はグラフだ。
 グラフの横軸は0, 4, 8, 12というふうに区切られている。縦軸の目盛りは小数点が大量についた数字であり、何か分からないがおそらく定量値らしい。そして色分けされたバーが、横軸のひとつの区画ごとに4本ずつ、色分けされて伸びている。左から三本目までのバーは非常に低く、0, 4, 8, 12という区切りを比較しても、あまり値は変わっていない。しかし、右端のバーは、0のところでは他の3つのバーとあまり違いはないものの、4, 8, 12とゆくにしたがって、バーが非常に高くなっている。右端だけ、結果に有意な違いがみられているようだ。それも、横軸の数値が大きくなるにつれて、その変化は大きくなっている。そう考えると、横軸は時間と考えるのが妥当だろう。ただ、その単位が秒なのか分なのか時間なのか、はたまた何か別の基準で定めた単位なのかは分からないが。
 とりあえず、これが何の検出結果かは今のところ分からないが、グラフで定量比較しているということは、おそらくRTはreal timeの方だろう。
「ありがとう。もう閉じていいわよ」
 憂はまたファイルを閉じる。さっきの画像ファイルの下にはword文章のファイルがあった。名前のところには『SDR region』とある。regionとは「地域、部位」などという意味の英単語であるが、染色体DNAの「領域」を示す言葉としても使われる。ということは、もしかして、先ほどのサザンやRT-PCRの結果は、この配列を検出したものだろうか。もっとも、さきのSDRというのが何のことなのかは、和には当然分からない。
「憂、これも開いてみて」
 和は云った。憂は和の指示に従って、ファイルをダブルクリックする。
 Wordファイルが開かれた。そこには、たった一行、短い文字が書かれていた。
 見た瞬間、憂と和は息を呑んだ。そこには、こんな文字が打ち込まれていた。

-GCAGTGCATAGTGATCAGTGCCCTA-

「和ちゃん、これって…」
 和はジャケットのポケットから、姫子から預かった例の紙切れを取りだし、互いの文字を見比べてみた。
「そうね。ここに書かれている配列と同じだわ」
 姫子にはただのアルファベットの羅列としかとれなかったが、憂と和は生命科学系の学部に進学しているだけあって、これがDNA配列を示すということは、一目で予想がついていた。どうやらこれは、SDR領域を構成している塩基配列らしい。
むろん、先ほどみたふたつの結果が、このSDR領域について解析したものだという保障はない。生物系の学問を専攻する唯なら、学生実習でサザンブロッティングやリアルタイムPCRをやる機会もあるかもしれないからだ。だが、もしこれらの結果が、この『SDR領域』や、これに関連して起こる現象を解析したものだったとしたら、これまでバラバラだった線が一本につながるかも知れない。
 もうひとつ疑惑があるところも、調べてみたほうがよさそうね。
 和は思った。それから、ポケットの中に入れておいた、USBメモリーを取りだした。
「憂、今見たファイル、USBに入れてもいいかしら」
「うん。いいけど」
 和はパソコンの側面にある挿込み口にUSBを挿し込んだ。そうして、この3つのファイルをUSBにコピーした。その処理の途中で、憂が訊いてきた。
「どう?何か分かりそう」
 和は笑いを含んだ表情で答えた。
「さあ、どうかまだ分からない。でも、ひょっとしたらね」


 3


 数日後、憂の家に再びメンバーは集められた。
 何でも、和が新事実を発見したらしい、とのことだ。
 リビングのテーブルを取り囲むように、憂、澪、律、ムギ、梓、姫子は座っている。和だけが窓の近くに立って、みんなの方を向いていた。
和は早速、自分の発見した事実を話し始めた。