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【けいおん!続編!!】 水の螺旋 (第三章・DIVE) ・下

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 翌日、お昼にもならないうちから、和、澪、律、ムギ、姫子は唯と憂の家に集まってきた。唯が帰ってきたという連絡を受けて、急いでやって来たのだ。
 本当に憂の家に唯はいるのだろうか。唯が姿を消したときの状況があまりに衝撃的だったためか、本当に憂の家に唯がいるというイメージが湧かない。しかし半信半疑の気持ちを抱えながらやってきた面々ながら、唯の姿を見て、誰もが安心と安堵の表情を浮かべた。
「唯、よく帰ってきたな」
「お帰り」
「お帰りなさい」
 そう唯に声をかける澪と律とムギの横で、梓の顔は少しこわばり震えていた。間もなく、彼女の目から涙がこぼれ出し、彼女は強く目をつぶった。
「ダメダメです。みんなにこんなに心配かけて。唯先輩は今も昔も変わらず、ダメ人間です!」
「あ、ごめんね、あずにゃん」
 と慌てたように唯は云ったが、あえて梓に抱きつくことはしなかった。今回ばかりは、みんなに多大な迷惑をかけたことは、自分でもよく分かっていた。スキンシップぐらいでそれを御破算にできるレベルだとは思っていない。
「唯、帰ってくれて嬉しいわ」
 梓の横で声がしたので、唯はその方を見た。そこにいたのは姫子だ。
「ごめんなさん、私のせいでみんなを巻き込んでしまって。唯にもつらい思いをさせたわ。けど、唯が帰ってくれて、本当に良かった…」
 といって、今度は姫子も泣きだした。
「み、みんな、ごめん。こんなにたくさんの人に心配してもらってるとは、思ってもいなかった…」
 唯はそういって、すまなさそうにうつむいた。
「…ま、まったく…、そ、想像力の…問題ですよ…」
 泣きじゃくりながらも、梓が追い打ちをかける。
「みんな本当に、唯のことを心配していたのよ」
 そう云ったのは、和だった。
「だから、これまでに何があったのか、私たちに話してくれるわね」
 唯は強くうなずいた。
 そこへ、憂が人数分のお茶とお菓子を持ってきた。
 唯が帰ってきてから、憂はこれまでとは見違えるように生き生きして見える。

 唯は話し始めた。これまでの間に、何があったのか。
 まず、2週間ほど前の明け方、何気に外に出た際に前日の帰り道ですれ違った青年と再び出会い、また原因不明な胸の痛みに襲われ、その場に倒れて意識を失った。
 唯が出会ったその男性が、実は賭里須 凜だった。
 唯は目覚めると、病院のベッドの上に寝かされていた。
 目覚めるなり、凜が話しかけてきた。
「気がついたようだね。平沢 唯さん」
「あなた誰?どうして私の名前を知っているの?」
「自己紹介が遅れたね。僕は賭里須 凜。どうして君の名前を知っているかは、あの人から聞いてくれ」
 凜は向こうにいる中年の男性を手で示した。男性はこちらに近づいてきた。
「平沢くん、はじめまして。私は石山といいます。K大学で教員をやっています」
 K大学…。
「和ちゃんが行ってるところ…」
 唯は思わず呟いた。
「のどか?ひょっとして、真鍋 和くんのことかな」
「は、はいっ。知ってるんですか。和ちゃんを」
「私の教え子だ。相当優秀な子だね。その能力を買って、私の研究室でもお手伝いをしてもらっているよ」
 唯は少し安心した心地がした。まったく何者か分からない人間に対して警戒心を抱かずにはおれなかったが、友人と関わりがある人だということを知って、少し気を許せたような気がした。
「と自己紹介をしたところで、君にはよく状況が飲みこめないだろうねぇ。まず、勘違いしないでくれたまえ。我々は君を無理やりここに連れ込んで、監禁し、どうかしようというんじゃない。ただ君が急に倒れたから、仕方なく無断でこの病院に連れてきたというわけだ。まあでも、君が倒れなくても、どのみちここにはお招きするつもりだったんだけどね」
「どういうこと?何のために…?」
「単刀直入に云おう。平沢 唯くん、君に魅力を感じている。いや正確には、君の“遺伝子”に魅力を感じている、と云うべきかな」
「私の遺伝子に、魅力…?」
「そうだ。私は理学部と医学部の教授を兼任していてね。自分のラボの研究テーマだけでなく、色んな先生と共同で複数な研究をやっているんだが、ひとつね、とっても面白そうなテーマを見つけたんだよ。あ、因みにここにいる賭里須くんは、私のラボの学生ね」
 そう云って、石山はしばらく話を止めた。まるで、手を突っ込んで揺れる水面が穏やかになるのを待つように。そして、具体的には唯の気持ちがある程度落ち着くのを待っているように。そのようにある程度行間を読んで、再び石山は話を進めた。
「ところで、君はヒトゲノム計画を知っているかな」
「はい。ヒトの染色体に含まれているゲノム (個体生物のもつ染色体DNAの総体のこと) の全配列を解析した計画のことですよね」
「ご名答。ヒトゲノム計画は10年も前に終了し、私たちは自分たちの生命の基となる設計図を手に入れることとなった。ただし、そうといっても、その情報すべてが理解できたわけではない。せっかく情報を持っていても、その使い方が分からなければ、宝の持ち腐れだからね。どの部分の配列がどんなタンパク質を合成して、それがどう機能するのか、それがすべて解明できなければ、本当に生命の設計図を解読できたことにはならない。いうなれば、今はジェネティックス (遺伝子を対象とした研究分野) やゲノミクス (ゲノム情報を解析する研究分野) から、プロテオミクス (タンパク質の構造・機能を解析する研究分野) やエピジェネティックス (染色体DNAの化学修飾によってもたらされる、遺伝子発現や染色体の挙動の変化を解析する研究分野) へ主眼をおいて、研究を進める時代だということだねぇ」
 唯もそのような話は大学の講義で聞いたことがある。DNA配列が分かっただけでは何の意味もなく、その配列がどのようなタンパク質を作り、またそこにどのような制御タンパク質が結合してどのような生物学的反応に関わるのかを解明することが大切なのである。
「ところで、だ。話は変わるが、こういう説がある。世界には、私たちの存在するこの宇宙以外に別の複数の宇宙が存在している。そして、それらはどこかで互いにつながりあっていて、互いに影響を与えあっている、というね」
 唯はこれまで分子生物系の話だったのが、いきなり宇宙云々の話になったので驚いた。
 石山はさらに続ける。
「一見、途方もなく現実離れした話のようだが、実はこのことが感じられる経験を、我々身近でしているものなんだよ。例えば、君は自分の実力や努力以外の要素に恵まれて、物事がうまくいったような経験があるだろう。このように、人には自身の力以外の要素に支えられて生きている部分が大いにあり、それには今の我々の知識・見解では説明できないものもたくさんある。人々はそれを“偶然”や“運”、さらにもっと大袈裟に“運命”とか“奇跡”などという言葉で形容するわけだ。さらには、“強く願えば、想いは現実になる”というような格言もある。それは、実現を願うことで、自分の行動も積極的になり結果的に夢を叶えられる、という意味も含まれているかも知れない。だが、一方で『我々の人智を超えた力に期待する』という意味が含まれているのも事実だ」