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ぼっち飯

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日曜日はいつも待ち遠しい。あんちゃんがごはんを作ってくれるからだ。
もちろん普段から朝食と夕食はあんちゃんの手作りなんだけど、それでも学校のある日はやっぱり簡単なものになりがちで、とくに近頃は帰ってくるのが遅くてメニューがいつも同じものばかり。ひどい日はレトルトのカレーで終わったりする。
遅くなるのは、どうも「部活」に精を出しているせいらしい。なにをする部活なのかはよくわからないけど、ここのところはなんだか楽しそうだ。
そんなのどうだっていいから早く帰ってきてほしい、と何度かお願いしてみたけど、まともに相手にしてくれたためしがない。
そのこともあって、部活のない日曜日は特別な日なのだ。あんちゃんが一日中家にいて、三食とも腕によりをかけて作ってくれる、一週間に一度のたいせつな日。
今週はいったいなにを作ってくれるんだろう、この前の夕食は「白えびとトマトの冷たいパスタ」っていうのがとってもおいしかった、またトマトの入ってる料理だったらいいな。月曜日からずっと、うちはそれだけを楽しみにして過ごしてきたのだ。
なのにあんちゃんと来たら、あんちゃんと来たら……!
木曜日の夜、前の日の作り置きのカレーライスを食べ終わるなりあんちゃんはこう言った。
「あ、そういえば今度の日曜は朝からちょっと出掛けるから。ごはんは適当にしといて」
「――――なん……だと?」うちはもう少しのところでキャラを崩すところだったけど、なんとか踏みとどまって尋ねた。
「我の魔力が最も弱まってしまう”太陽神の日”はとびきりの供物を捧げることと常から決まっておるではないか……。太古の昔から定められし夜の血族の掟を、貴様は破るというのか?」
「誰がいつそんなことを決めた。まあ確かに、いつもは余裕があるからそれなりに手間かけてたけど」
「……そもそも何処へ行くというのだ。此の地に移ってから月の満ち欠けを数えること一廻り、忌まわしき彼の安息日に汝が外界に赴くことなど絶えてなかったではないか……」
そうなのだ。引っ越してきてからもう一ヶ月以上経つけど、いままであんちゃんが遊びに出るのを見たことがない。
……やっぱり、新しいクラスにうまくなじめてないのかな。うちも人の心配をしてられる立場じゃないけど。
そんなことを考えていると、あんちゃんはびっくりすることを言った。
「部活の奴らとプールに」
「プール!? 行きたい! 行きたい行きたい!! 連れてって!」
思わず叫んでしまった。水泳は大好きなのだ。『鉄の死霊術師』とどっちが好きかっていうと、……うーんどっちだろう、って結構迷うくらい。
そうするとあんちゃんは、やっぱりかという顔をしながら、
「ダメ」
「なんでじゃ!」
「おまえ次の日テストだろ。学校からプリント来てたぞ」
「くっ……」
そうなのだ。来週の月曜日は実力テストがある。今年の5月から通っている聖クロニカ学園中等部は、勉強勉強と口うるさく言われるところじゃないけど、それでもいい成績をとっておくに越したことはない。……聖クロニカじゃない、別の高校に進むことも視野に入れるのなら尚更だ。
「昔からおまえ、プールに行った日の夜は疲れてすぐに寝ちゃってたろ。そんなんじゃテスト勉強できないだろ?」
「……ううむ、しかし……我の辞書に不可能の文字はッ……」
「いいから今回はやめとけって。だいたい、もうすぐ学校のプール授業も始まるんだろ? それでなくても、また今度連れてってやるから」
ポンポンと頭を撫でられる。そこまで言われては頷くしかない。
「…………絶対じゃけんな……」


そういうわけで、日曜日。
うちは居間でせっせとテスト勉強に励んでいた。
……もとい、励もうと奮闘した末に床に転がっていた。
「うーあー」
ひとりっきりの家で自分の部屋に閉じこもっているのもどうにも落ち着かないから居間に出てきたけど、イマイチ集中しきれない。
「……お昼でも食べるかな」
むくりと起き上がる。ほどほどにお腹もすいてきたので、気分転換もかねて近場のコンビニに買いに出かけることにした。
……あのあと結局、供物の話はうやむやになってしまった。一応の罪ほろぼしのつもりなのか、あんちゃんは朝食はしっかりと手を掛けたものを作ってくれたけど、昼食はいつもの平日と同じ扱いになってしまったのだ。つまり、コンビニ弁当。
このあたりは住宅街だから食べ物屋さんもあんまりないみたいだし、そもそも引っ越してきたばかりでどこにあるのかすらよく知らない。それに、知っていてもたぶん怖くて入れない気がする。駅前に出ればマッワやモヌのような、うちでもひとりで入れるようなお店がいくつかあるらしいけど、そこまで行くのも億劫だった。わざわざ着替えなきゃならないし。
自分でまかなうという手もあったけど、せいぜいがトーストとかインスタントラーメンぐらいしか作れないし、なんだか惨めだからやめた。だいたい、料理なんかに煩わされるなんて、偉大なる夜の血族の主義に反するじゃないか。
あんちゃんのご馳走か、それでなければコンビニ飯。選択肢はふたつにひとつ。
食卓テーブルの上に置いてある500円玉を右ポケットに突っ込んで廊下に出る。玄関の三和土でサンダルに足をつっかけてドアを押し開ける。
「うわ……」
当たり前だけど外はまぶしかった。梅雨入り前の6月の空は早くもギラギラと輝いていてどこかうっとうしい。うちは目を細めた。
いかに陽の光を克服した真祖といえども、屋外で直射日光に長時間晒されるのはあまり望ましくないのだ。紫外線はお肌の大敵。
コンビニは家の前の道路をわたってすこし行ったところだ。さっさと用を足してこよう。


「いらっしゃいませー」「っしゃませー」
店員さんの唱和を右から左に聞き流しながら入店する。カウンターを横目でちらりと窺えば見かけない顔だ。この店は平日から登校前に昼食を買いによく立ち寄っているけど、曜日と時間帯がズレているせいだろう。店内の空気もなんとなく違って感じられる。所変われば品変わる、というやつか。いや店は同じだけど。
そんなよしなし事をつらつら頭の端に昇らせながら、うちは弁当コーナーに直行する。
あんまりお腹空いてないし菓子パンでいいかな。勉強には甘いものがいいっていうしプリンも買っていこう。
と、背中に衝撃。
「うぎゃっ」
頭から棚に突っ込みそうになるところを危うく踏みとどまる。びっくりして振り返ると、女子高生っぽい三人組がキャッキャと騒ぎ立てながらレジに向かっているところだった。こちらにぶつかったことには気づいてもいないらしい。
「……上位存在への敬意を知らぬ愚民どもが。今が日曜の昼でなければ血祭りにあげるものを……。ククク……命拾いしたな……」
ギリギリ聞こえないくらいの音量で呟く。三人組は会計を済ませるとすぐさま表に飛び出していった。これから遊びにでも行くところなのだろう。嬌声がまぶしく光に溶けていく。
「……はぁっ」
知らず溜息を吐いていた。やっぱり面倒くさがらずに、外出着のゴスロリに着替えてくるべきだったかなあ。
……なにはともあれ、お会計して家に帰ろう。
そう気を取り直して商品を選び、レジに行くと、今度は店員さんがいない……。
あたりを見回してみると、
(ダベってる……)
作品名:ぼっち飯 作家名:ケジメド