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Open the door

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4章 いいかげんにしろ



「そもそも、君についてきたのが、最初から間違っていたんだ」
怒ったまま立ち上がり、ドラコは店から出ていこうとした。

「ああっ!ちょっと待ってくれ」
ハリーは慌てて呼び止める。
「このまま帰るつものなの?」
むっつりとしたまま頷き、踵を返して歩き出す。

「言っておくけどさ、ここにあるものはみんな一点ものなんだよ。分かっているの?気に入ったものがあったら、それだけしかないんだ。次に来たときに売れてなくなっていてもいいの?」
その言葉にドラコの足が止まり、振り向かないまでも相手の言葉に聞き耳を立てているようだ。
「君がなんでココに来ていたのか僕は分かるよ。古いものには価値がある。味がある。オリジナリティーもあって、それを手に入れて暮らしの中で使いこなしたいんだろ?―――君がドアノブを探しているのは、結局そういう意味じゃないの」
ハリーはここぞとばかりにまくし立てる。

「だってさ、ドアノブなんてさ、そこらへんのホームセンターで格安でいろんな形のものが売っているじゃないか。ピカピカの傷一つ無い新品がいくらでもあるし、セキュリティーを気にするなら、そういう種類のドアノブだって選び放題だ。だけどそんなものはイラナイんだろ?」
ハリーは問いかけた。

「君の家はさぁ、噂ではとても大きなお屋敷に住んでいるらしいから、アンティークな家具や調度品はゴロゴロいっぱいあって、古いものも、高級なものも、別に珍しくもなんともないはずだよね。しかもゴージャスな部屋のドアノブなら、それに似合った重厚なものを選ぶのが普通なのに、あえてシンプルなのを選ぶのが面白いと思ったし―――」
ドラコは少し驚いた顔で振り向くと、肩をすくめる。
「……君はふざけてただソファーで馬鹿みたいに飛び跳ねているだけだと思っていたのに、実はそこまで考えていたのか?」
「馬鹿は一言よけいだけど、まぁそうだね」
ニヤッと笑った。

ハリーはソファーに深く座りなおすと、「それで」と言葉を促す。
「―――それで、君はどんな形のものを探しているの?見たとこ、かなり選り好みをしているから、欲しい形やタイプが決まっているんだろ?」
ドラコはその言葉に眉を寄せ、むっつりと黙り込んでしまった。
もっと言葉を重ねて尋ねようとしたけれど、ハリーはそれ以上喋ることはやめて相手の出方を待つことにする。
なんとはなしに立っている相手の姿に目をやり、違和感がないことに違和感を覚えた。

淡い水色のジップアップセーターとジーンズというラフなスタイルは、目だった特長もなくていたって普通の格好だ。
ここでは。
―――つまりコッチの世界では普通だということは、まず魔法界の住人ではありえないことだった。

マグルやそのハーフでもなく、ドラコはれっきとした純血種で、マグル界には疎いはずだ。
魔法使いがこちらの世界にやってきたときは、とんでもない色彩の洋服を着ていたり、時代遅れのスーツや、色とりどりに染め上げたロングヘアーをしていたりして、奇抜な格好ばかりをしていた。
一発で分かる人が見たら魔法使いだとバレでしまうのに、なぜこんなにも目の前にいる相手はここに溶け込んでいるのだろう?

謎だらけで、知らないことが多すぎて、俄然ハリーは面白くなってきた。
ドアノブのことやその服装のこと、それよりもなぜ魔法界から一歩も出なさそうな相手がこのマグル界にいるのかなど、いろいろ聞いてみたい。

相手は何も喋らないので、逆にハリーのほうから立ち上がった。
「話が長くなりそうなの?だったらカフェに行く?上の階にそういうものがあったはずなんだけど……」
鼻歌でも歌いそうな素振りで先導し通路に戻る。

あとに続きながら、ぼそりとドラコが言った。
「探しているのは真っ直ぐでかっちりしたものだ。あまり飾りがあるのは好きじゃない。でもシンプルすぎるのも欲しくない。真っ直ぐな形で、それと同じような真っ直ぐな直線的な掘りがあるものを探しているんだ」
「それだったら、ホントにホームセンターに行けばゴロゴロある形じゃないか。でも、それは欲しくないんだろ?」
ドラコは深く頷く。
「だったら余計難しいよなぁ。昔のはゴテゴテした装飾や曲線ばかりのスタイルが主流だったし。逆に君の言うそういうシンプルな作りのものは需要もないから、廃棄されたりして、マーケットに出回らないんだよね」
「そうか……」
明らかに相手はトーンダウンしたようだ。

「でもさ、そういう形っていうかスタイルが昔、ひとつだけあったよ。確か………、ええっと……。ああ、マッキントッシュだ」
「マッキントッシュ?」
相手は意味が全く分からない顔をする。
「でも、マックと言ってもパソコンじゃないから!」
ちょっとしたギャグにもドラコはポカンと口を開けたままだ。
ハリーは拍子抜けした顔で「ソコは突っ込んでほしいところなんだけどなぁ」などと言いつつ苦笑する。

「こう真っ直ぐなラインでさ、カクンと直角に折り曲がっていて、装飾も一切取り払っていたラインが特徴的なんだ」
手でその形を表現しようとするが、ドラコの反応は鈍いままだ。
「分からないの?ここがこう……、まーーーっすぐで、ここの曲がる部分の丸くなるところがカクっとなってて……。分かる?」
尋ねても、
「何のことだかさっぱり分からない」
ハリーはからだ全体を使って、「これがこうなってて、ここがこうで……」と本格的に説明しても、ドラコは首をひねるばかりだ。

言いたいことが伝わらず、ハリーはイライラしてしまう。
「君、鈍いの?」
「何を根拠に?失敬な!ただ君がヘタ過ぎるだけだと思うぞ」
ムッとした顔でドラコが言い返す。
「ああ、そういえば昔から自分はジェスチャークイズは苦手だったっけ」
忘れてたと言いつつ、ハリーは頭を掻いた。
「それだったら、ウチ来る?参考になる本を持っているから」
気軽に尋ねる。
「はぁ。なに言っているんだ?」
驚くドラコを尻目に、ハリーは相手の背中を押した。
グイグイと押して、そのまま通路の先まで追いやっていく。

「ちょっ……ちょっと待て!どこへ連れていくつもりだ?」
「だから、僕の家」
「馬鹿は休み休み言え!なんで君の家なんかに行かなきゃならないんだ!」
「まぁまぁ、狭い家だけど遠慮せずに」
背中を押す手から逃れようとするが、ハリーのほうが行動は一枚上手のようだ。
みるみるうちに通路の奥まった場所に追い立てられ、その先には倉庫へと続いているらしい。
全く人ごみが途絶えて、この先はスタッフオンリーの看板が掛けてある。

作品名:Open the door 作家名:sabure