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【Secretシリーズ 7 】 Sunshine ↓

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1章 ハーマイオニーの涙


ハリーは深夜の大広間に入っていった。

手馴れたように、部屋の隅にある年代物のチェストの下段の扉を開けると、その中から薄い毛布を取り出す。
いつドラコから追い出されるか分かったものじゃないので用意周到に、彼がここに仕舞っているものだ。

(しかし、こうもこの毛布の出番が多いとなると、本当に情けないな……)
ハリーは苦笑しつつそれに包まり、いつもの場所に横になる。
大広間のソファーは上質なので、戸外の活動の寝袋なんかより、格段に寝心地はよかった。

「今回の偵察は雨の日が多くて、本当に疲れたな……」
うなだれて瞳を閉じると途端に、体中に蓄積していた重たいほどの疲労感が襲ってくる。
今まで、ドラコに再会できた嬉しさにすっかりそんなことなど忘れていたので、自分のからだの現金さに笑ってしまいそうだ。

疲労は体の限度を超えていたし、横になるとすぐ眠れそうなのに、逆に目が冴えて眠れない。
何度か寝返りを打ったり、枕にしているクッションの位置を直したりしたが、一向に眠気はやってこなかった。
疲れがピークを過ぎた神経は高ぶりすぎて、逆に目が覚めてしまったようだ。

(――いったいどうしたら、僕たちの関係はもっとよくなるんだろう?)
あかりを極力落とした薄暗い部屋の天井を眺めて、ぼんやりと思う。

(もう僕たちは1年もいっしょにいるのに、ときどき本当に話がかみ合わなくて、チグハグしている。原因は鈍い僕のせいかもしれない。いつも、最後には、ドラコがひどく怒り出すんだ……)

『ドラコはもしかしたら、僕についてきたことを後悔しているんじゃないだろうか』
そんな思いがいつも頭のすみにある。

『──いや、もうとっくに後悔しているかもしれない』
ハリーは真っ暗に気持ちになった。

(ドラコは自分の両親を学生の頃からずっと、誇りに思っていて大切にしてきた。僕はそれを彼から奪ってしまった。もうドラコはあの家には帰れない。帰りたくても帰れない。僕がそうしたから……。だから、ドラコは僕を選ぶしかなかったんだ。それしか選択の余地がなかったから、仕方なく僕の手を取ったにすぎないんじゃないだろうか……)
いつもハリーは疑心暗鬼だった。

(ドラコを不幸にしているは、僕自身かもしれない……)
その思いは考えたくもないが、いつも心を占めていて、ハリーを不安にさせる。
相手のことが好きすぎるから、なおさらハリーは真剣だ。
彼にとって二人の小さないさかいですら、とても不安な材料になってしまう。

『いつかドラコは自分を置いて、去ってしまうんじゃないか』
という不安がいつも胸の中にあった。

ときどきポツリと一人で野営のテントの中で悩み始めると、夜が眠れなくなるぐらい不安で仕方がなくなってしまう。
もう隠れ家のあの部屋に帰っても、ドラコは出ていってしまって、誰もいないのではないかと嫌な想像ばかりが浮かんできて、それを確かめようと居ても立ってもいられなくなり、何度仕事を放棄して帰りたくなるのを必死で思いとどまったことだろう。

ドラコは口が悪いけれど嘘がなくて、ハリーのことを愛して、ちゃんと大切に思ってくれていることは、彼自身も頭では分かっている。
それでもいつでもハリーは不安だった。
別にドラコのことを信じていないわけではない。
きっとドラコもハリーのことが好きで、愛してくれていると思っている。
それなのにいつも、ぼんやりとした不安がハリーを包み込んでいた。

ドラコを抱きしめて眠るときですら幸せなのに、不安なのだ。
その暖かさを胸に感じて、その柔らかな肩を抱いているのに、不安で仕方なくなる。
その不安がどこから沸いてくるのか、自分自身ですら分からない。
ハリーは『信じたいのに信じることが出来ない自分』を持て余す。

せっつくような落ち着きのない行動も、浴びせかけるような矢継ぎ早の愛の言葉も、ドラコをうんざりさせていることは分かっているのに、やめられない自分。
どんなに努力しても、心にある「不安」をどうしても消すことが出来なかった。