【Secretシリーズ 7 】 Sunshine ↓
次の瞬間、彼女は信じられないほどの身のこなしで、その一撃から逃れた。
──が、その波動もすざまじく、彼女は壁に猛烈な勢いで叩きつれられた。
グシュリとしいう、骨と筋肉がひしゃげる嫌な音がする。
ベラトリックスは苦痛に顔を歪めうめいた。
左手がまるで釣っていた糸が切れたように、だらしなく下へと下がり、自分の意思ではないのに前後にぶらぶら揺れる。
ギロッとハリーを憎憎しげににらみつけると、毒素が凝り固まったおぞましい鬼女は、殺伐とした声で宣言した。
「レダクト!破壊せよ!」
彼女の言葉に黄色い閃光が爆発した。
――――ドン!という腹に響く地鳴りとともに、この家の居間の壁が一瞬にして、半分に吹っ飛ぶ。
レンガがくずれ、天井の板が粉々になり、壁は無残な姿でバキバキと折れて千切れて舞った。
一瞬の爆発でほこりやチリが舞い上がり、その粉塵に息すら出来ない。
爆風に飛ばされ、ささくれ立った木片が、バラバラと小さなナイフのように上空から容赦なく下へと落下してきた。
ハリーは右ほほに鋭い痛みを感じる。
割れたガラスがざっくりと皮膚を切り裂いたらしい。
モウモウと上がる煙の中で、ベラトリックスを―――憎い相手を探そうと躍起になって、あたりを見回した。
めがねはほこりにまみれ視界は最悪で、ほほを血がボタボタと垂れていくのが分かる。
それでもハリーは必死で相手を探した。
黒い影が一瞬目の前を横切っていく。
「逃すものかっ!」
ハリーは必死で森の奥へと逃げ去ろうとするものの後を追った。
崩れた瓦礫を飛び越え、折れた柱をくぐり、相手の後を追う。
左手が折れている為にかなりの苦痛を伴っているはずなのに、ベラトリックスの動きは素早かった。
「レダクト!レダクト!レダクト!」
残った右手で彼女は粉砕の呪文を連呼する。
そのたびにハリーの目の前の瓦礫が弾け、木片が飛び散り、地面が穿った。
爆風、チリ、泥土、からだに突き刺さってこようとする破片。
それらに巻かれながらもハリーは叫んだ。
「ステューピファイ!」
麻痺の呪文だ。
一瞬で相手を死に至らしめる「アバダ ケダブラ」は一撃殺傷の呪文で、そう連発できるものではない。
精神統一と一呼吸分の時間が必要だった。
それよりも連続で発動が可能な上に、効果が多大な『麻痺の呪文』と『磔の呪文』を叫び、攻撃を続ける。
魔法を多量に発動させるには、それだけの技量と体力もいった。
若いハリーにはそれがある。
ベラトリックスは顔をしかめ舌打ちした。
(分が悪すぎる……)
彼女は狡猾でずる賢い性格だ。
自分が不利な場合の身の翻し方の素早さは、デスイーターの中でもひときわ群をぬいている。
それだからこそ、数々の凄惨極まる戦場から抜け出すことが出来たのだ。
「モースモードル!」
白く舞い上がったほこりが、青い空に髑髏の不気味な形をつくる。
「生まれて初めての死の呪文にしては、なかなかだったわね、坊や。ハハッ――!」
馬鹿にしたヒステリックな高笑い声が聞こえて、彼女はすぐに離れて消えうせてしまった。
煙が晴れて爆発が収まったとき、屋敷のレンガの硬い壁は10メートルに渡って崩れ落ちて、ぽっかりとした冴え渡った青空が頭上に広がっていた。
あたりに何の動きもない。
ただ静寂のみがただよっていた。
その中でポリツとハリーはただ立ち続けている。
ほこりにまみれて、めがねは割れ、衣類はずたずたに裂かれて、腕やわき腹、腿など、そこかしこに出来たキズから血がにじんでいた。
杖を握った手は小刻みに震え、ハリーは低くうめき、瞳をぎゅっと閉じる。
(……ああ、どうして)
とハリーは思った。
ドロとほこりにまみれた手で顔を覆う。
深い悲しみが襲ってきて、心が悲鳴を上げた。
『もういやだ』と。
(――どうして僕はこんなつらい運命ばかりを、生きていかなきゃならないんだ………)
涙が溢れて彼のほほを濡らしてとまらなかった。
「なぜなんだ!!」
彼の血を吐くような叫び声に、答えるものは誰もいなかった。
■続く■
作品名:【Secretシリーズ 7 】 Sunshine ↓ 作家名:sabure