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【Secretシリーズ 7 】 Sunshine ↓

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そう言うと持っていた杖を素早く相手に向かって振った。
緑を帯びた閃光が放たれる。
「ヘドリフィカス トタルス!」
その光線に当たったというのに、そんなもの気にも留めないような平気な顔で、彼女は振り返った。

ハリーは舌打ちをする。
どうやら敵は『妨害の呪い』を自分のからだにかけているらしい。
黒々とした美しい黒髪の魔女の、やや釣り上がった酷薄そうな瞳が険しく光った。

「ふん!なんて甘っちょろいのかしら、あなたは!まるで正義の味方ごっこでもしているの?『ヘドリフィカス…石になれ』ですって?――ハッ!そんな子供だましのような魔法で、わたしを捉えられると思っているのかしら。いいこと、呪文はこうやって使うものよ」
低い声で彼女は呟き、逆にハリーに向かって杖を振るった。
「クルーシオ!苦しめ!」
ベラトリックスが好んで使う禁忌の魔法に、ハリーはとっさに右へとからだをずらす。
閃光は赤く燃え上がる炎のように解き放たれ、後ろの壁にぞっとする黒いこげ跡を残した。

ハリーは彼女のことをひどく憎んでいるが、それは彼女とて同じことだった。
「余計なことはしないほうがいいわよ。今はね」
ベラトリックスが視線を送る先には、一塊になって肩を寄せている家族がいて、ガタガタと震えていた。
まだとても若く、ハリーと同じくらいに見える。
そしてそのふたりの間にはまだ生まれて半年くらいの赤ん坊がいた。

彼らにはデスイーターと対峙するほどの魔法力などない。
前方の床にむざんにも杖が折れて転がっている。
「なぜこのファミリーを襲うんだ?」
「ばかばかしい!なぜですって?!わたしが親切にあなたにすべてのことを話さなきゃならない義理などなくてよっ!」
そう言い切ると、振り向きざまに切れ上がった瞳のままに、その家族に容赦ない呪文をかける。
「クルーシオ!」
ハリーは前に飛び出すと杖を振るい、「インペディメンタ!」と叫んだ。
緑と赤の二つの閃光がぶつかり、まぶしいほどの光が飛び散った。

勢いのままに、その家族を守ろうと前に出て、うかつにもベラトリックスに一瞬、ハリーは背中を向けてしまった。

それがすべての間違いだった。

彼女は思いがけず素早い動きでからだを前進させ、杖ではなくハリーの後頭部に固く握った拳を叩き込んできたのだ。
さらにもう一度、崩れる直前に肘で同じ場所に見舞った。
ハリーは低くうめいて、自分の意識が闇に吸い込まれていくのを感じた。

彼が気絶したのはほんの1分にも満たないわずかな間だったろう。
だがハリーのオーラーとしての今まで培ってきた自尊心をずたずたに傷つけるには、それで充分だった。
全く持って油断していた。
彼女が女性でしかも細く痩せていて、武道など出来ないものだと思っていたのが、そもそもの失敗だったのだ。
彼女は『あのベラトリックス』だというのに!
ハリーは怒りと危機感に押されるように、床のじゅうたんからはね起きる。

そして愕然となった。

(これは何かの間違いだ。こんな馬鹿なことがあるものか!)
目を見開くハリーの前に、この家の若い家族がいた。
血をのどから噴出させてぐったりと倒れこんでいる。
「ベラ、貴様、いったい何を!!」
カッとして叫ぶ。

「――――『死の呪い』を見たのは初めてなのかしら?」
フッと黒い笑みのまま彼女は挑戦的に笑った。
「その呪文は相手のことを殺したいほど憎まなくては出来ないはずだ……」
苦々しげにハリーは問いかける。

「ええそうね。とても難しい呪文よ。でも、今のわたしにはとても簡単なこと」
まるで歌でも歌うように気軽にベラトリックスはあっさりと言う。
「わたしはね、瞬時に誰でも殺したいほど相手のことを憎むことが出来るわ。そういう風に感情を動かすことができるのよ」
(どう、うらやましくて?)とでも言いたげに、ベラトリックスの瞳が薄く細められて、ハリーを見下すように見た。

「いったい何年、わたしたちとやりあっていると思っているの。どれだけの血が流れたのか、まさか忘れたの?まったくおめでたい性格だわ!」
彼女の声は地底の底から漏れてくるような陰惨な響きをおびている。

「デスイーター―――。それは、死を食らう者」

突然ベラトリックスは甲高い狂人のような声で笑い出した。
それは美しくも残酷で、凶暴な笑顔だった。

「あなたもシリウスと同じ場所に行きたくはなくて?あの日からずっとあなたを心休まる場所に送りたくて、しょうがなかったのよ」
彼女は笑い続けながら、あごをしゃくってハリーの杖を見つめる。
「あなたが倒れた瞬間に消すことはたやすかったけれど、あっさりと殺すなんてもったいないからね。もっともっと痛い目にあわせてあげるわ。あなただけに、特別にね……。なにしているの、早く構えなさいよ、それをっ!」

ハリーは湧き上がってくる怒りに髪の毛が逆立ってくるのが分かった。
不死鳥の羽を中に閉じ込めたヒイラギの杖を、ゆっくりと相手に向ける。

「殺してあげる」
と、ベラトリックスは笑いながら挑戦的に言った。
彼女の瞳は青い光を放ち、両端が半月状に釣り上がった唇で笑みを浮かべたまま、全身から殺意をみなぎらせている。
「お前をどうやってイジメてやろうかしら?両手両足をもぎ取って、目をえぐり抜いて、舌を引き抜こうかしら?もちろん、心はシリウスのいる場所へと。そしてもだえ苦しみ死んだ遺体は、ちゃんと騎士団に届けてあげるから安心しなさい。わたしはなんて優しいのかしら、フフフ……」
闇の魔女はそう告げた。

ハリーはカッと目を見開いた。
心に熱い怒りが脈打ってくる。
ギリギリと歯軋りをして、相手をにらみつけた。
(ああ畜生!僕が忘れる訳ないだろ、ベラめ!絶対に忘れるものかっ!どれだけ僕がシリウスのことを信頼していたかっ!)

シリウスはハンサムで背が高く、細身のからだに、長めの黒髪をしていた。
あのアズガバンで狂うこともなかった強靭な神経。
陽気で心配性で、軽いかんしゃく持ちで、どこか憎めない性格だった。
名付け親として、何よりも誰よりもハリーのことを気にかけていた。
ハリーのことをとても大切に思い、彼が呼べばどんな危険を冒してでも助けに来てくれた。

――――短くても、それはハリーにとって幸せな日々だった―――


焼けつくような激烈ないきどおり。
残酷な運命をもたらした相手への憎しみにハリーは全身が震えた。
彼の心の中には深くて暗い穴が空いている。
それはシリウスがいた場所だ。
自分の中ある、とても大好きだったシリウスが場所は、今でも血を流し塞がることはなかった。

「許せない!許さない。――――許せるものか!!」
憎しみで心がいっぱいになり、溢れてきそうだ。
喉元を駆け上がってくるような、どす黒い怒りが湧き上がり、ハリーの口から呪いの言葉となり、明確な意味を持って発せられた。

「死を!!暗くて深い、地の底にその身をたたきつけて、処刑人の刃のような鋭さで、切り刻まれよ!――――未来永劫続く、転生もない暗い冷たい死を、ベラトリックスに――――!アバダ ケダブラ!」

轟音とともに矢のような赤い色を帯びた鋭い光がハリーの杖から放たれた。
しなる刃先のようにそれは一直線に進んでいく。