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【腐】やきもち【臨帝】

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それはまずい。非常にまずい!
「勿論。俺でよければ相談に乗るよ、竜ヶ峰君」
「え、えっとあの…」
「それじゃまた明日学校でね、竜ヶ峰君。さようなら、臨也さん」
「はい、さようなら」
臨也さんは臨也さんで明るい声で三好君を見送っている。
僕はその場で固まったまま遠ざかる三好君の背中を見ている事しかできなかった。


「─……さあって、帝人君。俺に聞きたい事あるんじゃないの?」
臨也さんは三好君が座っていた席に座ると「ん?」と
首を小さく傾げてにっこり笑った。
「それとも君は俺の愛を信じてこのまま恋人と偶然ファーストフード店で
再会した事を素直に喜んで俺と一緒に過ごしてくれるのかな?」
「……何が偶然ですか白々しい。どこから、聞いていたんですか」
「例え話を始めた所からかな」
それってほぼ全部聞いてるんじゃないか!
「悪趣味!」
「こんなところで恋愛相談おっぱじめてる君に言われたくないなあ」
「…ぼ、僕が放課後友達と一緒にいちゃ悪いんですか!」
「は?何いきなり。別にそんな事言ってないじゃん」
臨也さんの声は冷たかった。相手を射抜くような鋭い瞳。
なんだかこちらが悪いような気になって泣きそうになる。
めんどくさいな、ってそんな風に思われたらどうしよう。
僕は息をひとつ吐き出すと意を決した。
「…さ、最近、臨也さん、三好君と仲いいですよね」
「それは帝人君でしょ」
「この間、見かけたんです。二人で仲良さそうに歩いていました。…夜に」
「声かけてくれれば良かったのに」
なんて平然と言ってのける。僕にそんな度胸が
ないことぐらい知っているくせに。
「嘘吐き!あの日は、あの日は忙しいって言ってたくせに!!」
声が高ぶって周囲の客が僕等を見たが知るもんか!
「あのねえ、三好君は俺にとっても後輩なんだよ?
後輩と一緒に飯を食べに行く事がどうして悪いの。
君だって友達と遊んだりしているじゃないか」
「三好君と二人きりで会ってご飯食べたりする事の方が
大事なんですよね、僕と会うよりも!」
「ああ正直に言わなかった事に腹が立ってるってわけだ」
「当たり前です!」
イライラを隠せずに尖った声になってしまった僕を
臨也さんは見ているだけだ。それもどこか嬉しそうに。
その顔を見るだけで益々イライラが募る。
臨也さんを一人占めするなんて贅沢な事、
望むだけでもまだ気が引けるけれど、でも…
付き合っているのだ、僕達は。
「嬉しいな、帝人君やきもち全開だ」
更ににやけた顔になった。
「茶化さないで下さい。僕は真面目に話しているんですよ」
「なら俺も言わせてもらうけどさ、俺だって紀田君の事やら
クラスメイトやら色々と大目に見てやっているのに
男と二人で放課後デートってのも感心しないなあ」
「…?三好君は友達ですよ?」
「それにしても仲良すぎ。一緒に帰ったり
池袋案内してあげたり、落語とか行ったり、
おまけに自分の秘密を話しちゃうまでの
仲に進展するとかさ、驚いたよ」
今更この人相手にどうして知っているのと
尋ねるなんて愚問だ。相変わらずだな、本当に。
「そ、それは…」
「君の不注意のせいだから?そんなのいい訳だ。…俺だって妬くんだよ」
「…っ」
僕の心臓は低く発せられたその声にドクンと強く脈打った。
本当にこの人は、心臓に悪い。
「そ、そうやってまた僕のご機嫌取りをしようたって
そうは行きませんからねっ!」
「ふーん。まだ拗ねるの」
「別に拗ねていません。そもそも臨也さんが悪いんじゃないですか」
「は?何が?俺は嘘は言っていないし忙しかったのは本当の事だし」
「…で、でも…でも…」
臨也さんの手が伸びてきて、テーブルの上に
乗せていたままの僕の右手を掴まれた。温かい手の感触。
「だいたい熱を出した君の看病をどうして彼がするわけ。俺の出番でしょ。
なのに君は電話かメールの一つもしてこない、翌日になってへらへらした口調で
電話口で嬉しそうに三好君が看病してくれたんですよとか言ってくれちゃって馬鹿じゃないの」
臨也さんにぎゅう、と強く手が握られてガタン、と椅子が
引く音がしたと同時に顔を上げてしまい、臨也さんの顔が近づいてきて、
「!!」
公衆の面前でキスされた。もちろん唇に。
それはほんの一瞬の出来事ですぐに離れたが
思ったよりも周囲は騒然としなかったので助かったのだが見ていた
人間もいたようで離れた席の方で女性の黄色い声が確かに届いた。
「な、な、なななな!!」
何て事をしてくれるんだ!!馬鹿じゃないのこの人!!
当然今の僕にまともな思考力があるわけでもなく
ただただ口元を掌で塞いで顔を真っ赤にさせるだけで。
「ほんっとに可愛いねえ、帝人君は」
何を満足そうに頬杖を付いて笑っているんだこの野郎。
睨みつけてやると臨也さんは僕の頭を撫でてきた。
「こ、子供扱いしないでください!」
跳ねのけた手は辺りに響くほど大きな音が出てしまい
右手を擦っている彼の様子にはっとして少し罪悪感が
生まれたが、自業自得だ。
「俺からしてみれば十分子供だよ」
「その子供に手を出したのはどこのどいつですか」
「俺だねえ」
僕はガタンと席を立った。
「出るの?」
「いいえ。違います。腹が立ってお腹が空いたので
臨也さんの嫌いなファーストフードを目の前でお腹一杯食べてやります。
勿論お持ち帰りもします。全部臨也さんに払わせますからそのつもりで」
「ははっ!はいはい。どうぞ好きなだけ」
ゲラゲラと笑っている男を無視して僕は注文カウンターまで
歩き出した。どうせ子供だなって思っているんだろう。
ああそうだよ僕はまだ十六歳だよ臨也さんからしたら子供だよ。
そんな子供の僕に手を出した貴方だっていけないんだ。
ちゃんと責任を取ればいい。僕はぴたりと立ち止まり
くるりと振り向くと臨也さんと目が合った。
「本当は、ずっと……から……」
「?」
「だから、今日、は!逢えて凄く嬉しかったんですよ!本当は!」
捨て台詞を吐いて逃げるようにカウンターに走った
僕はその時笑い声がピタリと止まった臨也さんが
どんな顔をしていたのか知る由もない。
作品名:【腐】やきもち【臨帝】 作家名:りい