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蠱毒

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「ホラ、志摩さん、しゃきっとしてくださいよ。そんなんやといつまで経っても終わらしまへんよ」
「ああ~、ホンマ奥村君て体力宇宙やなぁ…」
 能天気な杜山しえみの笑顔。生真面目な三輪子猫丸にいい加減な志摩廉造。
「兄さん!そっちの木は触らない!」
 うっせー、メガネ!と雪男に怒鳴り返す声が聞こえる。鎮守の森まで刈ろうとして怒られたのだろう、どれだけアホなのか。サタンの子どころか、まるで悪魔の血縁っぽくない。
 今まではここまで鬱陶しいほど自分に関わってこようと言う者は居なかった。小学校でも中学校でも、誰しも出雲を避け、嫌っていたし、こちらも同様だった。だからこそ、親友は朴朔子《ぱくのりこ》ただ一人でよかった。彼女さえ居れば、他の誰が自分をどう思おうと関係なかった。
 だが、出雲がどんなに遠ざけようとしても、祓魔塾の面々は自分を勝手に巻き込んでいく。特に、杜山しえみと奥村燐は苛立たしいほど、自分に関わってこようとする。こちらが突っぱねても、拒否してもお構いなしだ。そして、事もなげに「仲間だ」「友達だ」と言ってのける。
 正直、祓魔塾の面々が自分をどう思っていようと、どうでも良い。だが、朴との間に感じる言葉にしない何か、それに近い感覚があるような気がしないでもない。
 仲間…?友達…?アタシが?こいつらを?
「おい、出雲!サボってんなよ!」
 ぼんやりしていた出雲を、燐がからかう。
「判ってるわよ!って言うか、ナニ馴れ馴れしく呼び捨てにしてんのよ!」
「うえぇっ!?ナニ怒ってんだよー?」
「うっさいわね!」
 出雲と燐のやり取りに、他の連中が笑い声を立てた。

「ええなぁ、坊《ぼん》は」
「エエ加減にしいや。今朝から何度言えば気が済むんや」
「何度でも言わしてもらいますっ!あんなおっさんと一日過ごさなあかんかった、俺のキモチが晴れんのですわ!」
 草むしりの翌朝。通学路の途上で、志摩が一人騒いでいる。
 大人の祓魔師達は思わぬ悪魔祓い《エクソシズム》のイベントが舞い込んだが、終わった途端にウキウキしながらビアガーデンで行われるという打ち上げに繰り出して行った。候補生《エクスワイア》達は霧隠シュラ、雪男と共に食い放題の店に連れて行って貰い、腹一杯になるまで食べ物を詰め込んだ。
「あんなぁ、こっちはエライ大変やったんやぞ。何度も言わすな」
「エエですやん。女の子と一緒の上に、祓魔のイベント付きて、メッチャお近づきになれるチャンスやないですか」
「アホ。そんなんしたいん自分だけやろ」
「ホンマ志摩さん、少し煩悩祓うてもろたほうがよろしいえ」
「なんや、坊《ぼん》も子猫さんも。なしてそないないけず言わはんのぉ」
 志摩廉造が不満そうに唇を尖らせる。今回の志摩は壮年の男性祓魔師とずっと一緒で、一日中愚痴を聞かされた挙げ句に、エライこき使われたらしいのだ。食い放題の店だと言うのに、ほとんど食べ物に箸をつけず、あんなに憔悴した志摩を見たのは初めてだった。
「坊《ぼん》、出雲ちゃんのケー番くらい聞かはりました?」
「いや、聞いてへん」
「なんやぁ、教えてもらお、思てたのに」
「アンタには絶対教えないわよ」
 本気でがっかりしている志摩に、思わず出雲が呆れた声で断りを入れる。通学路の途中で意図せず後ろにつくことになってしまったので、挨拶でもしようかと親友の朴朔子《ぱくのりこ》と様子を伺っていたのだが、機会のないまま、突如文句を付けることになってしまった。
「おはよう」
 のんびりした朴が三人に挨拶する。少し赤みが残ったままの日焼けした顔で、口々に挨拶が返る。
「出雲ちゃんもおはよう」
 志摩が懲りもせずに話しかけてくる。
「おはよう」
 おだやかな子猫丸の挨拶には普通に応じたのに、廉造に返す声は自分でも驚くほどヒヤリと冷たい。がっくりする志摩が見たいのかも知れない。しょんぼりする志摩を、朴と子猫丸が苦笑混じりに構いながら先に歩いていく。
「昨日はありがとぉな」
 隣に並んだ勝呂の厳つい顔が、少し照れたような表情を浮かべている。
「うまく行ったから良かったものの、いきなり飛び出すのは止めてよね」
「まぁ、何とかしてくれるやろ、思てたからな」
「いつも上手く行くと思ったら大間違いよ」
「わかっとる。…これ」
 顔を少し顰めて言い淀んだ勝呂が、出雲に小さなビニール袋を差し出す。
「ナニコレ?」
「お揚げさんや。お前の使い魔に礼や」
「礼?」
「あの猫がおかしい思うたんは、お前の使い魔が注意してくれたからや」
「で、油揚げ?」
「男子寮出て少し行ったとこに、豆腐屋があるんや。おっちゃん一人でやったはる小っさな店やけど、なんや旨そうやったから」
 押しつけるようにビニール袋を渡した勝呂は、さっさと先へ進む。
「坊《ぼん》、顔真っ赤ですよ?」
 目敏い志摩がからかう声が聞こえてくる。
「うっさいわ!」
 勝呂が、志摩を怒鳴る。呆れた顔の子猫丸、三人のやり取りに弾けるように笑う朴。
 仲間だよね、なんて改めて確認しない。だけど、確実に何かのつながりがある。今まで朴以外には感じたことがない何かだ。
 油揚げ貰って、仲間の証…?
 そんな馬鹿な、と打ち消しながら、勝呂が豆腐屋で油揚げを買う様を想像した。
 早くくれ!と使い魔たちの嬉しそうな声が聞こえたような気がした。
作品名:蠱毒 作家名:せんり