泡沫の恋 前編
二人は新羅のマンションでお茶をごちそうになった後、帰宅するために夜の街を歩いていた。タクシーを呼ぶ、と友人は言ってくれたが、少し歩きたい気分だった。
駅まで行けばタクシーは簡単に捕まるし、たまには二人で電車に乗ってもいい。
そうしたら帰りにコンビニで甘いものでも買って帰ろうか。
そんなことを考えながら、二人は歩く。当然のように会話はない。
ないわけではなかった。静雄が時折何かを喋り、臨也はそれに頷く。
それは今日の出来事であったり、臨也の伝えたいと思う言葉を確認する作業であったり。
少し風が強くなってきた。まだ寒いと感じる季節ではなかったが、早く家に帰りたいな、と思う。
家に帰って、二人で温かいものでも飲もう。
明日は休みだから、何か二人でDVDでも見ようかな。
早く帰ろう。そうして二人でまた一緒に過ごそう。早く早く。家へ帰りつかなければ。早く。
何かに急き立てられるような気分でそう思う。
そんなことを考えていたら、臨也は静雄よりかなり先を歩いていることに気づいた。
振り返れば、静雄は靴ひもがほどけたのかしゃがんで結びなおしている。
・・・ああ、ボーっとしてたな、全然気づかなかった。
臨也は静雄に謝ろうと近づき、そして。
強い風が、吹いた。
その建物は、工事中だった。
今よくある流行の、おしゃれなマンション。
工事期間が思いもかけず長引いてしまい、入居日が近づいているのにまだ建設途中で。
かなり施工を急がされている、という話は臨也も聞いていた。
だからだろうか。
クレーンの先に鉄柱がぶら下がったまま、というありえない状況で今日の工事は終了されていた。
そのつなぎ目は緩かったのか、それとも劣化していたのか。
鉄柱が、ワイヤーから滑り落ちる。マンションの、屋上から。地上の、静雄を狙うように。
危ない、と。
伝える声が、臨也にはなかった。
届かない。
いつだって大切な言葉は、静雄には届かないのだ。いつだって。
混乱する思考の中、やけに冷静にそんなことを考えている自分がいた。
To Be Continued……