親友の恋
彼女に下されたの罰は、遠く離れた場所への幽閉と決まった。子を持つ数多の女達が、彼女とその子を護った結果だ。
もう二度と家族にも友人とも会えないながらも、それを告げられた時にも彼女は感謝を口にしていた。
その彼女がひっそりと街を離れる時に、私だけが見送りを許されたのは、師の特別な計らいがあったからだ。
私はただ彼女に謝りたかった。
どの様な謗りを受けようと、彼女と同じ裁きを受けられなかった私に罰を与えられるのは、最早彼女自身だけ。
しかし愚かな私が切り出す前に、強くも優しい彼女は柔らかな声で言うのだ。
「貴女に憧れていたから、身の丈に合わない無茶をしてしまったわ。親友の貴女にも本当に迷惑をかけてしまって、何とお詫びをして良いのか……。ごめんなさい、私が友達だって事も、もう貴女には苦痛よね。本当にごめんなさい」
私はこれまで何をしていたのだろう、何を見ていたのだろう。
大切な彼女を失ってまで、何を護ろうとしていたんだろう。
「私は貴女の親友よ! これまでも、これからもずっと、ずっとずっと変わる事なんかないわ! 誰にも何も言わせない、私は堂々と貴女の親友であり続ける!!」
言いたかった事はこんな事じゃない。
こんな当たり前の事じゃない。
しかし嗚咽にまみれながらではこんな事しか言えず、それでも彼女は優しく私の手を握ってくれた。
「ありがとう、私にとってもずっと貴女が一番の親友よ。だからいつまでもお元気で」
私はこの声を忘れない。この温もりを忘れない。
どれだけの年月が過ぎようと、彼女との再会を待ち続ける。
だから、別れの言葉は言わない。
また会いましょう。
それまでお元気で、私のただ一人の親友――。
彼女がこの手紙を読んだ時に、いったいどんな顔をするのだろう。
大きな目をもっと大きくして驚くだろうか。それとも、いや、きっと確実にただ喜んでくれるだけに違いない。彼女は今でも彼女らしく、そして今や優しい母親として遠くの地で暮らしているのだろうから。
人生とは判らないものだ。どれだけ計算と打算を積み重ねてきても、思い掛けない所から予想も出来ない事が飛び込んできて、これまでの人生を大きく変えてしまう。
彼女が彼女としての生き方を貫いたように、私も私としての生き方を貫こうとした。
世の中が漸く平和の道筋を作り上げた時には、彼女との手紙のやり取りを許され、文字に綴られる彼女の強さから、更に私の思いは強くなっていった。
しかし私は明日、家を捨てる。
いったい誰がこんな事を予想しただろうか。少なくとも私は想像もしていなかった。貴族たる私を捨てて、女としての私を選ぶ事になろうとは。
そしてそれが王の元へというのだから、やはりいくら彼女であっても少しは驚くかも知れない。
ただ、これは戦いなのだと私は思っている。
あの日、彼女が恋をした日から始まった、私と彼女の戦いだと。
彼の話はかの国からも聞こえない。おそらくもう二度と彼は表舞台に現れる事はなく、それを私は許しはしない。
だが本来なら裁かれるべき彼が今もなお存在しない中で、彼女の有りもしない罪を拭える手段がどれだけ残されているだろうか。
私が私であり続けても、私では彼女を連れ出す事は出来ない。だからこそ私は、私に差し出された手を取った。
卑怯かも知れない。それでも良いと仰って頂いたからこそではあっても、きっと私は贖罪の気持ちを持ち続けていくだろう。けれどそれと同じだけの、いやそれ以上の敬愛の念でかの方にお仕えし、そして私の全てで御守りしたい。
彼女が私に教えてくれた強さは、貴族として生きるには何の役にも立たないが、女として、そして何より尊厳ある人として生きる力だったように今は思う。
貴族の家に生まれただけの私ではなく、一人の女として生を授かった私だからこそ、果たせる何かが確かにあったのだ。
私には彼女のように強い想いを持つ事は出来ない。しかしこれからの私が私として歩んでいく事で、罪もない優しい母と子が平和の中で平等に生きていけるなら、それこそが私の価値たり得るのではないだろうか。
彼女が彼女として真っ直ぐに生きてきたように、私も私として真っ直ぐに生きていく。
彼女の恋は終わってしまったけれど、紡がれ残る命があるのなら、私達はその命にこそ真っ直ぐに強く生きねばならないのだと思う。
彼女の直向きな心の強さは、いつかこの国の全てを覆う強さになる。私はそれを信じている。