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選択肢Pの可能性 《P-Bullet》

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沢田綱吉はある事に頭を抱えていた。
かつて彼はボンゴレリングこそが争いの種なのだとそれぞれの守護者へリングを破壊するように告げた。

ミルフィオーレさえ現れなければその判断は正しかっただろう。

だがミルフィオーレは現れた。

綱吉にとって心のよりどころでもあった、師リボーンも死んだ今
ボンゴレをはじめとする残った対抗勢力を纏めるのは綱吉しかいない。

同じくリボーンのもとで学んだとされる兄弟子、キャッバローネのディーノに頼ることもできなくはないが
組織のパワーバランスを考えればそれは「してはいけないこと」なのだと、今の綱吉には分かっている。

幼い頃に彼に頼る事が出来たのは、それこそ自分が何もできないただの子供だったからなのだろう。

だからこそ周囲も容認していたし、むしろキャッバローネのボスが目を掛けるからこそ
綱吉は周囲に「若くしてキャッバローネを従える事の出来る逸材」なのだと言う誤認を与える事が出来た。

厳戒態勢で眠る事のない城となったボンゴレ本部の一室で、綱吉は大きくため息をつきデスクの上に置かれている電話の受話器を取った。

「…雲雀さん…すぐに俺の部屋へ来ていただけますか?」

かつての先輩であり、綱吉にとって「最強」の象徴とも言える雲雀を呼びつけるのは未だに抵抗があった。
雲雀が別組織の頭であるとは言え、ボンゴレの傘下にある以上本来なら敬語を使う事さえ周囲には力関係を誤解させかねないが綱吉にとってはこれが精いっぱいだった。

続いて、降ろしたばかりの受話器を再び持ち上げる。

「ランボ、渡したい物があるから俺の部屋へ来てくれ」

かつての自分は今の姿の彼を「大人」と呼んでいた。
今から思えばおかしな話だ、10年バズーカは10年後の自分と今の自分を5分だけ入れ替える事の出来る道具。
あの頃5歳だったランボの代わりに現われていたのはたった15歳の少年、あの頃の自分とたった1歳しか違わない少年だったのだ。

今の自分から見ればランボは今だって充分に子供だ。
大人ぶっているがそれでもやはり泣き虫で怖がりで、ただあの頃よりもほんの少しだけそう言う事を我慢できるようになっただけの子供なのだ。

「綱吉、入るよ」

「ぴ、ギャーッ、雲雀さん引っ張らないでーっ」

そんな具合に過去の憧憬に浸っていた綱吉の意識が現実へと呼びもどされる。


「入ったら奥の部屋へ、いま飲む物を用意させます」


奥の部屋、という言葉に雲雀の眉尻がピクりと動いた。
この執務室の奥には普通なら容易に立ち入る事の出来ない秘密通路と、秘密の部屋がある。

氷のような眼差しでそのままランボを見下ろした雲雀。
そんな雲雀の目線にますますちぢみあがったランボは、しかしそれがおかしなことなのだと気付いたようで疑問の眼差しを綱吉へと向けた。

その様子に綱吉は思わず苦笑して、肩をすくめるとデスクの引き出しからボンゴレの蝋印が押された一通の封筒を取り出した。

「想像の通り、話はミルフィオーレの事ですよ。ランボ、お前にはこれを」

「あ…あの、何で獄寺さんや、山本さんじゃ、なくて…?」

相当雲雀が怖いらしい。
びくびくチラチラと雲雀の様子をうかがいながら封筒を受け取るのをためらっているが、雲雀の方はランボのそんな仕草に苛立ちを募らせているらしく、目つきはますます悪くなっていく。

「お前にしか頼めないからだ、ランボ。」

「ねぇ、だったら僕は戻っていいかい…それとも、わざわざ子守をさせるために呼んだって言うのなら…噛み殺す」

「ま、ま、雲雀さん落ち着いて。雲雀さんにもちゃんと話があるんです。でも確かに多数の人間に聞かれると困るのでランボに頼む要件を先にしたんですよ。ランボ、お前はその手紙を肌身離さず所持していろ。」

「…どういうことで?」

「その手紙は、リボーンに宛てた物だ。もしもお前が今後リボーンに会う事があれば、渡してほしい。」

伊達に時間移動を繰り返しているわけではないのだろう。
ほんの一瞬戸惑った表情をしたランボだったが、その意味を飲み込めたのか「確かに、お預かりしました」といつになく真剣な、そして緊張した表情で頷くとそれを上着の内ポケットへしまい込んだ。

そして雲雀に僅かに頭を下げると綱吉の執務室を出て行く。
それを見送り雲雀はようやく隠し部屋の方へと体の向きを変えた。

綱吉は、言葉通り再び受話器を手にとるとお茶の準備をするように部下へ言いつける。

「…種は、二つ。どちらが芽吹くかは分からないけど……どうか変わってくれ。」


それは、誰にあてた言葉だったか…。
ノックの音に綱吉は飲み物を用意してきたのだろう部下に入室の許可を出した。