選択肢Pの可能性 《P-Bullet》
げねれ うん ピアノ
なんだこれ、というのが最初の感想だ。
目を覚ましたとき、ツナの手に握られていた紙に書かれていたのだが正しくは
「GENERE UN PIANO!!」と
荒っぽい、おそらく自分の字だろうと思われる筆跡で書かれているため、実際にはなんと読むのかさえわからない。
自分の字なのに分からないとはどういうことかと言えば、書いた覚えがないの一言でしかない。
そもそもここはどこなのか、学校机らしきものに突っ伏して眠っていたが通い始めて間もない並盛中でないことは確かだ。
机も椅子も壁も、窓に掛かるカーテンでさえ白い異様な教室。
その中でツナだけが色を持つものとして存在している。
ぞくりと背筋が寒くなった。
同時にその異様さに息苦しさを感じる。
新鮮な空気が欲しい、とツナは席を立ち窓を開けようとカーテンを勢いよくめくった。
「なん、だよ…コレ…!!」
カーテンの下に隠された窓
それを見た瞬間、更なる怖気がツナの背筋を駆け抜ける。
窓の外など分からない。
ツナの目に映るのは窓の打ち付けられた鉄板と、固定する巨大な釘やネジだった。
とてもではないが、ツナの力では引き抜けそうになかった。
いや、抜けるとしても触ることさえ恐ろしい。
とにかくこれだけは分かった。
此処は危険だ。
にじるように後ずさり、窓が再びカーテンに隠れた瞬間
ツナはこれまでの人生ではあり得ないほどのスピードで体を反転させると先程まで突っ伏していた机の横にかけられている鞄をひっつかんだ。
そして走る、教室を飛び出す。
廊下の壁に体当たりして足を止め、振り返る。
先ほどまでいた教室とは正反対で、廊下には非常灯しかついておらず
窓もないため不気味なほどに薄暗かった。
いま、ツナの足下を照らすのは白い教室から漏れてくる白い明かりだけだ。
怖がりなツナにとって薄暗い学校の廊下など恐怖の対象でしかない。
だがいまは安全なはずの明るい教室の方が恐ろしかった。
ツナはふるえる足で何とか立ち上がると自身を照らす明かりから
逃れるように暗い廊下へと足を踏み出した。
とりあえずここが学校なら誰か、教師でも生徒でも事務員でも、とにかく誰かがいるはずだ。
いや、いて欲しいと
ツナはどこか祈るような思いで足を進める。
教室の扉を開けるのは、となりの教室をみて断念した。
ツナの居た教室の扉は真っ白だった。
隣の教室はそれとは違い真っ赤な扉だ、となればツナにはあの教室とは色違いの異様な赤い教室があるのだとしか思えなかった。
事実扉についている磨りガラスの向こうからは赤い光が漏れ出している。
ダメツナと呼ばれようが構わない。
神経をすり減らす事になると分かっていてわざわざ覗きこむほどの度胸などないことぐらい、ツナ自身が一番知っていた。
出来るだけ教室の方へ近寄らないようにしながら再び一歩を踏み出そうとした時
ぽん、と何かが肩に触れた。
作品名:選択肢Pの可能性 《P-Bullet》 作家名:北山紫明