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選択肢Pの可能性 《P-Bullet》

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「沢田!おまえ沢田だよな!!」

見た覚えのある顔にツナは言葉を飲み込んだ。
誰を呼ぼうとしたのか分からないのが自分でも不思議だったが、目の前に知った顔があるという安心感がその違和感を忘れさせる。

「えっと、野球部の……」

「山本、山本武って言うのな!あー、よかったー!」

そう言って人懐っこい笑みを浮かべて駆け寄ってくる同級生にツナも自然と笑みを浮かべた。

「いやぁ、目を覚ましたら全然知らないとこでびっくりしてよ…教室でても並中じゃねーし。でも沢田が居て良かったのな、こんなとこに俺一人だったらどうにも出来ねーからさ」

「そんな、俺の方こそ!山本くんに会えてよかったよ。情けないけど一人じゃ心細くて…怖くて」

この年になって怖いだなんて少しカッコ悪いような気もしたが、それでも相手が山本だと思うと自然とその不安は口をついて出て来た。
そして山本もそんなツナの想いを知ってか知らずかニカッと笑ってバシバシと肩を叩いた。

「情けなくなんてねーのな。こんな状況で一人なんて誰だって怖くなるもんだぜ」

「山本くんも…?」

「おう!ってか山本でいいぜ、しらねー仲じゃねぇし」

そう言いながら笑う山本に叩かれた肩の痛みを感じながらもツナは確かな安心感をかんじた。
さっき感じた知り合いに対するものではない、もっと確かな何か…山本だからこそ感じる安心感だ。
ほんの少しツナはそれを疑問に思ったものの、それを山本が野球部期待の星であり、学校が始まって間もないこの時期に既に人気者だからだと心の中で理由づけた。

とにかく誰か先生を探そうと言う話になりツナは山本と連れ立って廊下を歩いていた。
山本の手には護身用なのか、多分毎日きれいに手入れをしているのだろうバットが握られている。
良くドラマなんかで不良がバットを武器にするシーンがあるが、山本のそれはもっとしっくりくるように見えた。

「にしても、変な教室ばっかなのな。青とか赤とか、うわっ…此処なんか紫だぜ!!」

「山本の居た教室は青かったの?」

「あぁ、別に嫌いな色じゃねーのになんか背筋がゾワゾワしてさ。とにかく全身がやばいって感じ取ってる感じですっげぇ鳥肌とか立ったんだよ。」

あの教室にも感じた不安感、それが自分だけではないと知りツナは胸をなでおろす。

「俺の居た教室もさ、真っ白だったんだ。白ってイメージ的にも嫌な感じじゃないはずなのに…凄く嫌な感じだった。」

「だろ?!あー、ホントツナが居て良かったのな。一人だと話す相手もいねーしさ、嫌なことばっかり考えちまうんだよな」

ツナ、ほとんど誰にも読んでもらった事のないはずの自分の愛称。
けれどそれもまたしっくりと自分になじんだ。

何故、なのだろうか…

相変わらず隣では一拍も置かない勢いで喋り続ける山本がいる。
彼も不安なのだろう、けれど

本当ならば不安は連鎖するはずだと言うのに、特に怖がりな自分なんかは異常なこの空間で異常なまでに明るくふるまう他人を見て怯えているはずなのに、何故だろうか山本だから大丈夫なのだと感じていた。

一歩進むごとにこの奇怪な状況に心は落ち着いていく。

「大丈夫だよ」

気付けばツナの口はそう動いていた。
何が大丈夫だと言うのか、奇妙な状況はまったく変わらないし、こんな場所に本当に自分たち二人きりなのだとすれば何も"大丈夫"ではない。

「俺達は、ここから出られるよ。みんなだって、心配してるだろうし、なんとかなるよ」

何の保証もないその言葉、みんなとはいったい誰なのか、何がなんとかなるのか…。
ふとすれば相手の怒りをあおりかねないその言葉は山本の口を止めた。

やはり怒ってしまったのだろうか、ダメツナと呼ばれる自分なんかにこんな慰めみたいなどうしようもない事を言われて腹を立てたのだろうか。
急に不安に襲われたツナは恐る恐る山本の様子をうかがった。

「…なんとか、なる」

「あ、っいや…その!!ごめん、何の気休めにも、ならないよね」

「ハハ、謝んなって!そうだよな、俺たちなら大丈夫なのな!!頼りにしてるぜ、ツナ」

山本の顔に再び浮かんだ笑みは、今度こそ何の不安も感じていない彼らしい笑顔だった。
何の確証もないはずなのに山本はツナの背をバシバシ叩いて肩を組んでくる。 

ほとんど知らないはずの自分の事を、山本はすっかり信用している。
それと同じようにツナも山本をほとんど知らないはずなのに確かな信頼を感じていた。

「こっちこそ、改めてよろしく」

「おう!」

大丈夫、なんとかなる


再び心中で呟いたその言葉はツナの中で確かな支えとなり始めていた。