何色世界
「次に生まれ変わるんなら、同じやつがいい…。今度は対等に、話してみてぇな…」
おまえと、とそう言って彼の瞳が閉じられた。俺は名前を呼んだ。
声が嗄れるまで呼んだ。それでももう二度と、動かなかった。
不恰好な巣の真ん中で、俺は項垂れた。天敵である彼の身体をそっと抱き締める。
「……置いてかないでよ」
囁いた声は、誰にも届かなかった。
コンクリートが砕けるけたたましい音が響く。ナイフを投げれば口で噛んで砕かれた。人間のやることじゃあないだろうと、俺は呆れながらも逃げることをやめない。
色んな場所を巡ってきた。俺たちが通った道はまるで戦車が押し寄せた後のように破壊し尽くされる。
ひとりの、人間によって。
俺たちは、人通りのない直線の道路に立った。お互いに息が切れ、俺はナイフを、彼はその辺で引き抜いたらしい標識を持って、対峙する。
彼が壊した何かによる砂煙が晴れていく。バーテン服のその姿をようやく捉えた頃、ふわりと、何かが舞ってきた。
黒いそれはシズちゃんの頭上を旋回したかと思うと、あろうことか彼の頭にひらりと止まった。
ボロボロのバーテン服を着た池袋最強の男が、片手に標識を持ちながら、頭に黒揚羽をくっつけている。
それがおかしくて、思わず腹を抱えた。急に笑い出した俺に、シズちゃんが訝しげな視線を投げてくる。
「どうしたんだ。とうとう頭でもいかれちまったか?」
「だってシズちゃん、頭に、蝶々が」
蝶?と、彼は首を傾げる。それでも揚羽蝶は離れることはない。
笑い続ける俺に、シズちゃんは標識を持ち直して、長く息を吐いた。
「それなら俺も、ひとつだけ言っておく」
彼の視線が俺を射抜いた。俺は思わず、笑うのを止めた。
「手前の頭、蜘蛛の巣ついてるぞ」
「え、」
彼がニヤリと口元を歪めた。
その笑顔は、いつかどこかで見た気がした。