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ロイ・マスタング。
彼は裏社会では有名な殺し屋だった。
殺し屋仲間はターゲットとの接触をなるべく控え、チャンスがあれば即殺す。
理由は単純で、あまりターゲットに接近しすぎたり、ターゲットのことを知れば知ってしまう程、情が移ってしまうからだ。
だが、ロイの場合だいたい2週間程ターゲットに接近し、飽きれば殺すというスタイル。
決して情が移ることはない。
それどころか殺すまでの日々をストーリーと称し、楽しんでいるというのだ。
そのため、仲間からも距離を置かれた存在となっている。

そんなロイへの殺しの依頼の方法は2つ。
仕事をくれる数少ない友人の紹介、または情報を金で買ったであろう奴等からの手紙。
今回の仕事は前者だった。

「仕事だぜ。」

「女か?」

「いや、違う。」

「それはつまらない。」

「本当に性格が悪いな。」

「ほめ言葉として受け取ろう。」

「次のターゲットはこの前死んだカイン将軍の一人息子。レイル・カイン19歳。」

「了解した。」


情報屋であり、ロイの唯一の親友であるマース・ヒューズ。
彼は相変わらずなロイのことをひどく心配していた。

以前、二人はともに軍人だった。
だが、ある戦いでロイは誰よりも大切にしてた恋人を失った。
それからのロイはどんどん壊れていった。
昼間は上層部に喧嘩を売るような仕事に態度。
夜は眠ることなくひたすら酒におぼれる毎日。
とても見ていられなくなったヒューズはロイとともに軍を辞めた。
ヒューズはその後グレイシアという女性と結婚し、ごく一般的な工場で働き始めた。
だが、ロイはヒューズの知らぬ間に殺し屋なんてことを始めていたのだ。

当時はヒューズとどちらかが死ぬんじゃないかという程、殴りあった。
だが、いくらヒューズが説得してもロイが正気を取り戻すことはなかった。
ヒューズは妻や子供には内緒でロイを見守るために情報屋を始めた。
ロイに舞い込む仕事を自分が与えるものだけにしろと説得し、ターゲットは犯罪者や、テロ組織の元幹部などにした。
殺してもいい命とは言わないが、いつでもロイがこの世界から抜け出せるように、
殺しても出来るだけロイの心が傷つかないように必死だった。



だが、今回のターゲットは少し違った。
この前あるテロ組織により殺されたカイン将軍の一人息子。
息子といっても養子で、カイン将軍には妻が居ない。
その結果、軍での功績でたまりにたまった莫大な遺産は全て血のつながらない息子に委ねられたのだ。
その遺産を狙っての依頼だとロイは受け取っただろうが、真実は違う。

真実は―――

「俺はこれに賭ける。」

ヒューズはロイが出て行った扉を見つめ続けた。



作品名:Who? 作家名:おこた