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【けいおん!続編】 水の螺旋 (第五章) ・中

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 唯と凜は、二葉に浸食されて赤く濁った場所にたどり着いた。
「暗闇の空間への入り口がここにあるはずだ」と、凜は辺りを捜し始めた。が、ふいに「あっ」と叫んで立ちすくんだ。
「どうしたの?」と唯がやってきた。しかし、目の前の状況を見て、唯もその場で絶句した。
 暗闇の空間への入り口が、ぶよぶよしたゼリー状の物体に覆われて、入れなくなっている。
「二葉の仕業か…」
 凜が呟いた。
「どうしよう。このままじゃ、向こうの世界へは行けないよ」
「いや、ひとつだけ方法がある」
 唯の弱気な言葉を打ち消すように、凜が力強く云った。
「えっ、どうやって?」
「ワームホールを作るんだ」
「ワームホール?」
「そうだ。力強いエネルギーで空間に穴を開け、向こうの世界とつなぐんだ」
「そんなことができるの!?」と唯は驚いて訊いた。
「ああ。だが、そのためには条件がいる。力強いエネルギーで穴を開けても、どこまでも亜空間をまっすぐに掘り下げるだけで、向こうの世界とつなぐことができないんだ。相反するエネルギーで亜空間を補強しながらねじ曲げて、もう一方の世界へとつないでやる必要がある」
「それって、私と凜くん、ふたりの力が必要ってこと?」
 珍しく唯が冴えたことを云った。
「そういうことだ。まず、僕が地面に向かってエネルギーを放つ。そのエネルギーは激しい怒りを込めて撃つ。つまり、憎むべき敵を倒す攻撃のためのエネルギーってことだ。そこへ、唯が別の気持ちを込めて、エネルギーを放ってくれ」
「別の気持ちって?」
「ただ相手を殺したいってのとは違う感情だ。つまり、戦うための目的ってやつだな。唯、お前は何のために今戦ってる」
 何のため…。急に訊かれて唯は一瞬戸惑ったが、目を閉じた時仲間たちの顔が浮かんできて、はっと思った。
「…大切な仲間たちと、未来を作るため、かな」
「ならその気持ちを込めるんだ」
 凜はその場にしゃがんで、地面に向かって手をかざした。彼が力を入れると、赤い閃光が辺りを飛び交い、地面に徐々に空洞ができ始めた。
「唯、僕が“いい”、と云ったら、穴に向かって、想いを放ってくれ」
 力を込めたままで凜が云った。唯は「う、うん」と応えたが、どこか自信なさげにそわそわし始めた。戦う目的をはっきりと言葉で表しはしたが、果たしてその想いをどこまで強く感じ、なおかつ力に換えられるのか、彼女には掴めなかったのだ。
しばらくして、凜が「今だ!」と合図した。唯はあわてて穴の方へ手をかざした。唯の手元からオレンジ色の閃光が放たれ、穴の中へと落ちてゆく。だが、その閃光は凜のものと比べるとはるかに弱々しいものだった。「唯、もっと想いをこめろ」凜が云った。だが、唯はそう云われても、戸惑うばかりでこれ以上どうすることもできなかった。やがて、バチッと音がし、その時の衝動で、凜は後ろに軽く吹っ飛ばされた。穴は消えてしまった。
「何やってんだ、馬鹿!!」
 凜は唯を怒鳴りつけた。彼の怒声に唯は思わずビクッとなる。
「だ、だって、いきなり云われても無理だよ」
 “大切な仲間たちと未来を作りたい”その想いに嘘はない。だが、それを力に換えることは唯には困難だった。気持ちは飽くまで気持ちであり、その想いを戦うための具体的なエネルギーに変換するまでには至らないのだ。小説などを読んだ時、漠然とした光景を頭に思い描くことはできても、具体的な場面をイメージすることが難しいことと一緒だ。今の唯の状況においても、具体的なイメージを持ち合わせていなければ、大きなエネルギーを生み出すことはできない。
 具体的なイメージ…。唯は考えてみた。何かシンボルがあればいいのではないか。私にとって、仲間とのつながりを一番感じさせてくれるシンボルといえば…。
「ギー太……」
 唯は呟いた。
 今、唯にとって、仲間たちと自分をつなぐ一番のパイプとは音楽である。放課後ティータイムのメンバーはもちろん、憂や和たちも、自分が音楽を通じて成長をしてきたということを分かってくれている。
そして、ギー太は自分が音楽を表現する上での一番のパートナー。つまり、放課後ティータイムのメンバーたちを音楽でつなぐ最高のアイテム。同時に、憂や和たちに、自分を音楽という観点から認めさせてくれるアイテムでもある。
 つまり、唯にとって、仲間とのつながりを感じさせる一番のシンボルとは、“ギー太”なのだ。
「ギー太…。今ココにギー太がいれば……。ギー太ぁ!!」
 唯は悲痛な声をあげた。

『…ギー太ぁ!!』
 ふいに、憂の耳元で、姉の声が聴こえた気がした。憂はあたりを見回したが、むろん唯の姿はない。
「どうしたの?憂」
 梓が訊いた。
「いや、今お姉ちゃんの声が…」
「唯先輩?いないよ。気のせいでしょ」
 梓はそう云ったが、憂は強い表情でそれを否定した。
「ううん。そんなことないよ。確かにお姉ちゃんの声がした!『ギー太』って叫んでた。…お姉ちゃんにギー太届けてあげなくっちゃ」
 憂は熱にうかされたように歩き出した。「ちょっと、憂!?」と梓が呼び止めたが、憂は歩を止めないどころか、徐々にそのスピードを速め、やがては走りだした。
 憂が向かった先は、唯のアパートだった。息をつくのも忘れて、合い鍵で唯の部屋の玄関を開け、中に入ってギタースタンドに立てかけてあったギー太を掴み、ギターケースに入れた。ケースのチャックを閉めたら、今度はギー太を抱えたまま部屋を出て、玄関に鍵をかけ、再び走りだした。あとは唯にギー太を届けるのだ。
 憂は唯が現在いる廃屋となった病院の場所を知っているわけではなかった。しかし、所在について思い巡らす間もなく、行き先へとつながる道が自然に憂の視界に入ってくる。息の苦しさも、抱えるエレキギターの重さも、憂には感じられなかった。ただ、一刻も早くお姉ちゃんにギー太を届けたい、そのような思いが憂を唯へと導いていた。
 憂は扉をあけた。土足のままで中へと入ってゆき、『診察室』という札が貼られた部屋の前で止まった。中には、白衣を着た初老の男が立っていて、片隅のベッドには、ふたりの男女が寝ていた。女性の方は、紛れもなく自分の姉だった。
「何だね、君は」
 初老の男は尋ねた。しかし、憂はそれには構わず、部屋へと入り、ベッドにいる姉へと近づいた。
「お姉ちゃん……」
 憂は唯に向かって声をかけた。心なしか、唯の表情が少し緩んだ気がした。
「ん?君は平沢くんの妹さんか」
 そういえば似ているな、と石山は思った。憂は相変わらず石山の方は見向きもせず、姉に向かって話しかけた。
「お姉ちゃん、ギー太連れてきたよ。ほら!!」
 憂はギー太をケースから出し、寝ている唯に抱えさせた。

 突如、唯は両肩にずしりと重さを感じた。ふと見れば、自分の両手は渇望していたパートナー・ギー太を抱えている。
「ギー太! 凜くん、私今度こそいけるよ!!」
 唯はそう云いながらストラップを肩にかけて立ち上がった。凜は半ば呆れたように「やれやれ」と声をあげた。あれから、唯は意気消沈してその場に座り込んでしまっていたし、凜もどうすることもできなく、苛立ちを残したまま立ちすくんでいたのだ。
「いいな、今度こそしっかりやれよ!」