チョコレイト・デイズ
「ほら見ろ、ハリーだってそう思ってたんだ」
「えっ?」
ハーマイオニーとロンに顔を覗き込まれて、ハリーは慌てた。どうやらまずいときに声を出してしまったらしい。
「まだ揉めてるの?」
「まだとはなんだよ」
「重要なことよ」
「二人って仲いいよね。妬けちゃうよ」
ハリーはぼそりと呟いた。
「何言ってんだよ、ハリー!」
ロンが真っ赤な顔をして大声を出した。
「何言ってんのよ、ハリー!」
ハーマイオニーも真っ赤な顔をして大声を出した。
やっぱり、この二人って・・・。素直じゃないよな。
「それよりスネイプが来たよ」
「えっ!」
ロンとハーマイオニーは同時に叫び、天敵の姿を確認すると同時に行動した。やっぱり気があってる。
「さっ、行くわよ」
「これ以上、減点されたら破滅だ」
大げさに体をブルブル震わせたロンは、がたがたと椅子から立ち上がり、逃げるように出口に向かう。その後をハーマイオニーが即座に追おうとして振り返り、慌ててハリーの手首をしっかり掴んだ。
「ハリー! 急いで! また八つ当たりされちゃたまらないわ!!」
「えっ!」
もつれるようにして、二人は走り出した。ハーマイオニーはさり気なくスネイプから一番遠くを通るルートを選択している。その後姿を寮生たちはあっけにとられて眺めていた。
「ロンったら薄情ねっ。もう姿も見えないわっ! クソ爆弾を投げてやるって豪語していたのは誰よ、まったく!!」
ブツブツ言うハーマイオニーに引きづられるようにして走るハリーは、スネイプが口元にこぶしをあてているのを見た。相変わらず無表情だ。だけど。
笑ってるんだ。
ハリーにはわかる。わかっちゃうんだなぁ。なんでわかるんだろ。
「私としたことが逃げ出すなんて信じらんない! 悔しい!」
でもこれ以上減点されたらみんなに殺されちゃうし。あぁ〜、もうやんなるわ。
食堂を出てからも、廊下を軽快に走り続けるハーマイオニーの愚痴は止まらない。
先生。ハーマイオニーは悔しいんだって。ちょっと笑えるよね。あのハーマイオニーが悔しがってるなんて。いつもなんだか余裕なんだよ。ロンや僕のほうが悔しいような思いをしてるんだ。きっとネビルたちもそう思ってる。
バタバタとした足音に何事かと皆が振り向くのを横目に、ハリーは心の中でスネイプに話しかけた。
今夜が待ち遠しい。話をしたいことがたくさんあるんだよ。
逸る僕を見て先生はきっと苦笑とともに静かに聞いてくれる。そして、あのしっとりした大きな手で、時々髪の毛を優しく撫でてくれるんだよね?
ハーマイオニーに手を引かれて走りながら数時間後に思いをはせ、ハリーは自分の顔が笑み崩れていくのを感じていた。
作品名:チョコレイト・デイズ 作家名:かける