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【けいおん!続編】 水の螺旋 (第五章) ・下 +エピローグ

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 石山への私怨がもとで、精神世界へ自分の意思を呑み込まれてしまった二葉にとって、精神世界での自身の世界が潰れてしまえば、自身の人格を保てるはずがなかった。目標も野望も失くし、そして自分が何者かさえ分からなくなって、ほとんど廃人と化してしまった。
「また、来てくれたん…だな。…ありが…とう。見舞い…に来て…くれる…のは、君だけ…だよ」
 彼は石山のことも知覚できなくなっていた。ただ唯一自分を見舞ってくれる、心優しいひとりの男としか映っていないのだ。
 因みに、“あの出来事”の後、コスモライフ教の中に、彼のような状態になる信者が続出した。彼ほど酷い人格の荒廃ではないが、人間性がすっかり変わってしまったり、無気力になったり、発言や行動がおかしくなったり、などとという症状が多く見られるのだ。そのような状態になった信者に共通しているのは、5月16日の緊急集会に参加した、ということであった。彼らがそうなった理由が石山には分かっていた。そして、その火種をばらまいた揚句、自ら火だるまになってしまった男が目の前にいることも。
 大学を辞めた石山は、これからの人生を『教団の後始末』に費やすつもりであった。罪滅ぼしというよりは、それが自分の使命であると感じているのだった。
「元気に過ごしているかな。困った事はないか?」
 石山はそう云いながら、台に置かれた花瓶のほうにふと目をやる。いつさしたのか、花瓶の中の花はすっかり枯れていしまっていた。
「花瓶の中の花がもう枯れているな。この花と交換しよう」
 石山はそう云って、古い花を捨て、花瓶の水を入れ替えて、自分の持ってきていた花束を花瓶にさした。
 その様子を二葉と呼ばれていた男は呆然と眺めていたが、やがて感動したような溜め息を漏らした。
「ああ…。そんな…ことを、し…て…くれる…のも、君…だけ…だよ。本当…に、優し…い…んだ…な、君は。心…から…感謝…して…いるよ…」
 男は目に涙を浮かべてこう云った。そんな男を石山は上から見下ろし、そしてニヤリと笑った。


 3


「ごめん、また会いにきちゃった」
 姫子は申し訳なさそうな顔を繕って、両手を顔の前で合わせてみせた。
「全然いいよ、いつでも来て」
 唯は笑顔で彼女を迎え入れる。
 昼下がり、姫子は唯のアパートに遊びに来ていた。とはいっても、一番の目的は唯ではなく、彼女のギターであった。いや、正確にはギターの中にいる“彼”に会いに来ているのだ。
 実際のところ、凜が魂を送りこんだのは、“精神世界で具現化されたギー太”であり、ここに存在するギー太ではない。けれども、唯も姫子も、ギー太を見ると、凜を思い出し、彼を近くに感じているような気分になれるのだった。
「そうだ、唯。差し入れ持って来たんだけど」
 姫子はそう云って鞄の中からビニール袋を取り出した。中には、缶のお酒がごろごろと入っている。
「今、真っ昼間。それに、私まだ辛うじて未成年だよ、警察官」
 唯は呆れたような口調で云った。
「いいじゃんたまには。それに、唯はもう20才も同然だって」
 警察学校に通っているくせして、姫子はその辺のところがかなりフランクなのだ。
 ふたりは地べたに座り、ギー太を囲みながら酒を飲み、話に花を咲かせた。
 そのうち、姫子は少し酔いが回って来たらしく、勢いでこう切り出した。
「ねえ、唯。今まで黙ってたけど、私思ってたんだ。彼には、私より唯の方がお似合いだなって」
「えっ、そうかな」
「そうだよ。正直、早くくっついちゃえばいいのにって思ってた。なのに唯ったら、私に気を使って、全然動こうとしないんだもの。見ていてちょっと腹立たしかったわよ」
 唯は少し苦笑いを浮かべた。
「うーん、でも私、凜くんが好きだって自分でも分からなかったからなぁ…」
 姫子は身を乗り出す。
「あんたねぇ、お子様なのよ。そんなんじゃ、女の幸せ逃しちゃうわよ」
 唯はそんな姫子の言葉を受けて、微笑みながら云った。
「そうかもね。でも私の心には、凜くんが残して行ってくれたものがある。私はずっと、それを抱えて生きていくの。それってとても、幸せだと思う」
「この、云ってくれるじゃないの!」
 姫子は唯の頭をわしづかみにして、グジグジとやってみせた。
「痛い、痛いよ、姫子ちゃん」
 唯は痛がりながらも、愉快そうに笑っていた。それから、ふたりはしばらく声を出して笑った。
 笑い終わると、唯は思い出したように云った。
「そうだ。凜くんを想って書いた歌が一曲あったんだ。今まで誰にも聴かせなかったんだけど、姫子ちゃんには聴かせてあげるね」
「へー、またおのろけ? いいわよ、聴いてあげるわよ」
 唯はギー太を手に取って、膝の上に置いた。
愛用のギターを抱える唯に姫子は、「お幸せに…」と、いつか彼女に云った台詞を、彼女に聞こえないくらい小さな声で、呟いた。
 唯は瞳を閉じて、幸せそうな表情で弾き語り始めた。


『My first declaration』

やっと気づいた 真実の気持ち
空に浮かぶ あの雲のように ふわふわで

言葉にして 初めて知った
コードの響きにも似た 合言葉

友達の恋愛は 応援もしてたけど
自分の心は 家で丸くなる 子猫ちゃんだった

だけど 君と現在を生きることが
宝箱の中のキラキラだと いま知ったの

夢の世界で ただふたりきりで
君に好きだと云った瞬間は 私にとって永遠…


君の幸せ 心から祈る
私の背負う荷物が もし増えたとしても

約束するよ 忘れないよ
一緒に過ごした あの日々は

心の境界で 君に口づけした
おもちゃ箱のトキメキを 雨が濡らした

少しだけワガママ 云っちゃってゴメンね
もう大丈夫 私も未来へ羽ばたける

愛には 形も重さもないけど
君への想いを 抱いたこの胸は たしかな重みがある


夢の世界で ただふたりきりで
君に好きだと云った瞬間は 私にとって永遠…

This is my first declaration of love…
And you’re my love…