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Naked Mind

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一人にしないで。
僕はいつだって、ここにいるのに。



自分が机に向かっている間に、その背後を足音立たぬようにゆっくりと、ドアから抜け出そうとする熱斗にため息をついて、彩斗は勢いをつけて立ち上がった。
ビクリ、と熱斗の肩が上がる。
「熱斗」
自分と同じ顔をした双子の兄に後ろから襟を掴まれる。
「まだ今日の課題終わってないんだろう?夜になって泣きついたって知らないからな?」
「あ、あはは〜…」
今日も熱斗は彩斗の終わった課題を見せてもらえずに結局忘れていった挙句、担任であるまり子先生に怒られたばかりだった。隣の教室から壁越しに聞こえてくるまり子の声とクラスメイトの笑い声に、彩斗はため息をついて恥ずかしい思いをしたばかりである。
「宿題終わるまで遊びに行くの禁止!」
「えー!?」
即座に声を上げた熱斗の頭上に、拳を落とす。熱斗は頭を押さえて床を転がった。
「今日はデカオと対戦する約束なんだってばー!!」
その腕を引っ張って机まで行かせる彩斗に、熱斗は抗えないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。


「…だから、そこは今週習ったばかりだよ…熱斗!」
今日5回目になる彩斗の言葉に、熱斗は思わずペンを放り投げた。投げたいのはこっちだ、と言う言葉を飲み込んで、彩斗は変わりに小さく息を吐く。
「あとで彩斗の写すからもういい!」
「それが駄目だって言ってるだろ!怒られるのは僕なんだぞ!」
聞く耳を持たない熱斗が部屋の扉を開けたときに、彩斗は少し息を吸って、口調を変えて熱斗を呼び止めた。
「折角もう少ししたら炎山が遊びくるのに、熱斗は遊びに行っちゃうのか…残念だな」
それまで振り返りざまに睨みつけていた熱斗の目が、本来よりも大きく開かれて、輝いた。
「炎山が?!なんで?!」
慌てて彩斗の前に戻ってきた熱斗は、必要以上に彩斗に顔を近づけて聞いてきた。
その変化の早さに彩斗は呆れたような顔を返して、熱斗の額を押し返すと離れた。
「炎山のトコがまた新しいゲーム作ったから渡しに来…暑苦しい!熱斗!」
思わず抱きついてきた熱斗を引き剥がす。
「彩斗が炎山と同じクラスで良かったー!」
感謝するならさっさと宿題を終わらせてくれ、と彩斗は静かに眉間に皺を寄せた。
5年に進級する際に行われたクラス替えの発表で、それまでの4年間で結局一度も同じクラスになれなかった炎山と、またしても接する機会を失ったと知った熱斗の絶望振りを思い出す。
ただでさえ世界的大企業の社長の息子という生まれつきの肩書きは周囲を敬遠させるほどの威力を持っているのに、それに引けを取らない容姿と頭脳で、炎山は上級生にすら圧倒させていた。常に羨望と憧れのまなざしの中心にいる。熱斗も勿論、それに洩れることなく彼への憧れを含んだ好意を抱いていることは、彩斗もずいぶん前から知っている。
双子であるが故に、熱斗と同じクラスになることの出来ない彩斗は、偶然にも3年に昇級した際のクラス替えから炎山と同じクラスになり、しばらく熱斗からの望んでもいない顰蹙を買った。元々上位の成績を誇り、炎山と首位を争うほどだった彩斗は、席が前後になったことも重なってどうやら気が合うようで、5年になってからは学校外でもたまに会うほどになっていた。当然のように、彩斗についてきた熱斗も含めて。
「まったく、熱斗は炎山と聞くと目が変わるんだから」
早速遊ぶ約束を取り消すためにデカオに電話をする熱斗を横目で見て、彩斗は机上に広げていたノートを片付けると階下へ降りた。
丁度母のはる香が午前中から取り掛かっていたパイが完成したらしく、香ばしい匂いが広がっていた。
「あら彩斗、熱斗の宿題終わった?」
母親の問いに、彩斗は両手をひらひらとさせて首を振った。彩斗の様子を見て、困ったような笑みを浮かべて返す。
「困ったわねえ…」
そう言いながらも全く本気で困っているのか疑わしい反応で、はる香はパイを切り分けた。
「あ、今日はもう少ししたら炎山が来るよ」
「あら、じゃあ熱斗は遊びに行かないのね?」
「らしいよ」
「ほんとに、3人して仲が良いんだから」
熱斗の炎山への引っ付き振りは、家族全員の知るところだ。ソファーに座ってテーブルの上に置かれていたリモコンでテレビのスイッチを入れると、階段を駆け下りるやかましい足音が聞こえた。かと思うと、勢いをつけて彩斗の隣に座る。
「電話は終わったのか?」
「ああ、勿論」
「じゃあ机の上に宿題全部出しておくんだな」
熱斗が、今日忘れた分も含めて大量の課題を出されていることは、すでに自分の担任であるゆり子先生から聞いている。
「何で?」
少々嫌な顔になりながら、熱斗が聞き返してきた。
「そりゃ、炎山が来るのは、お前に宿題教える為でもあるんだからな」
「あら、良かったじゃない、熱斗」
キッチンから母親が嬉しそうに声を掛けて、熱斗は口をへの字にゆがめた。
「終わらないと遊べないからな」
「えー!?」
聞いてない、と言わんばかりに熱斗は声を上げた。だが、それを遮るように、来客を知らせる玄関のインターホンが鳴った。
「全部終われば遊べるんだから良いじゃないか」
立ち上がって、玄関に向かいながら、彩斗はひらひらと左手を振った。


「…で、どうしたんだ、熱斗は」
玄関に立っていた炎山は、彩斗の後ろからついてきた熱斗を見て、開口一番にそう言った。
「いらっしゃい。まあ、気にしなくていいよ、単に宿題がしたくないだけだから」
廊下を歩きながら彩斗が言うと、炎山は熱斗を見ながら眉を寄せた。
「まあ、炎山が付いてるならすぐに片付くだろうけどね」
だったら彩斗が教えれば、という炎山の問いを、彩斗はわざと聞き流した。
確かに、放課後に約束したときに彩斗に試作のテストをやる代わりに熱斗の宿題を見るように言われたけれど、まさかそれが本当に待っているとは思いもしなかった。そのために、いつもは炎山の部屋に彩斗が遊びに行くのを、わざわざ彩斗の家に変更せざるを得なかった。
それまで、誰かの面倒を見るなんてことなどしたこともない。ましてや、同学年の人間など。
「…まあ、いつもの交換条件よりは簡単だと思うけど」
落ち込んだ熱斗が聞こえないほど小さな声で、彩斗はすぐ後ろを歩いていた炎山に囁いた。
一瞬、踏み出していた炎山の足が止まりかけて、しかし何もなかったかのように歩く。
「…彩斗」
「なに?」
部屋に入る前、ドアのところに立った彩斗を、炎山は呼び止めた。
熱斗はぶつくさ言いながら、椅子に座る。
「お前、何かあったのか?」
「…え?何が」
予想だにしなかった問い掛けに、一瞬耳を疑った。どう答えるかを決めかねて、彩斗は炎山の目を見つめる。
「別に。何も」
「なら良い」
彩斗がいつもの笑顔を浮かべたのに炎山は無表情のままで、彩斗より先に部屋に入った。
熱斗が机の上に教科書とノートを広げたまま動こうとしないのを、炎山がどうにか開かせようとそのノートを取った。
「あ、ちょ…っ!それ駄目!」
慌てて炎山からノートを取り返そうとして、しかし炎山はその前に開いてしまうと、渋面を作った。熱斗の焦った顔が、引きつった笑いを浮かべる。
作品名:Naked Mind 作家名:ナギーニョ