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Naked Mind

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照れたような、近くでなければ聞こえなかったであろう小さな声で、彩斗はそう言った。
言われた2人も妙に照れ臭くて、熱斗は鼻の頭を掻いたし、炎山は少し俯いて笑った。
「なんか、彩斗が言うと嘘臭く聞こえるかも」
熱斗が小さくつぶやいた直後に、彩斗は熱斗の首に回した片腕に力を込めた。
押し潰したような声が上がる。逃れようとする熱斗に、炎山と彩斗の笑い声が聞こえた。
「3人ともー、降りてらっしゃい」
タイミング良く、はる香の声が階下から聞こえた。いつの間にか階段のほうから香ばしい匂いが漂ってきている。最近凝っているパイ作りが成功したのだろうと、3人は目を合わせただけで理解した。
「今行くー!」
彩斗と熱斗が声を揃えて答える。そんなことはずいぶんと久しぶりで。2人は顔を見合わせた。彩斗が先に階段を下りる。
「やっぱり、羨ましいな」
その様子を見ていた炎山が、熱斗の後ろでつぶやいた。熱斗が振り向く。少し間がるように、熱斗は片足の爪先で絨毯を擦った。
言わなければならない。自分の中の炎山の占める位置を。
「で、でもさ、俺は炎山のこと・・・」
「熱斗―、炎山―、何やってんだよー」
伝えたいのに。





「熱斗くん!熱斗くんってば!!」
聞きなれた声が、耳元で自分の名前を呼ぶ。
いつもの朝とは少し違う目覚め。
「おはよ、ロックマン・・・」
「もう!何寝ぼけてるの!」
呆れたように言われて、ようやく熱斗は自分の部屋の天井ではないことに気付いた。
「ようやく目が覚めたのか。ずいぶんといい夢を見ていたようだな」
首を傾ければ、炎山が見下ろしている。
「あれ?俺どうして・・・」
ロックマンと炎山が同時にため息をつくような動作を見せた。
「覚えてないの?」
「そんなことだろうと思ったさ」
2人の反応で、ようやく目の覚めてきた熱斗は天井を睨むように目を細めて考えた。
確か、クロスフュージョンの練習をしていたはずだった。最後の記憶があるのは擬似的に作られたウイルスと戦ったところだ。
「それでウイルス倒して・・・」
「一人で突っ込んで勝手に自滅したんだろうが」
炎山の容赦ない言い方に熱斗は薄ら笑いを返すしかなかった。ここのところ炎山よりも倒した数が上回っていたのを調子に乗ったところを、弱小だと侮っていたウイルスに囲まれてやられたのを思い出す。
「まったく、だから調子に乗り過ぎだって言ったのに!」
自分の忠告を聞き入れられなかったのをロックマンはいまだ根に持っている。
「ごめんってば〜」
PETの中で腕を組んでそっぽを向くロックマンに謝って、上目遣いに炎山を見上げた。
夢の中と同じ青い目が少し細まって、熱斗を見ている。
「それで、ずいぶんとよく寝ていたようだが」
「ああ、ちょっといい夢だったかも、な」
満面の笑みで返してきた熱斗に、炎山はまた呆れた顔を返しただけだった。
「ちょっと、夢じゃなきゃいいかもと思ったけどさ」
熱斗の言葉に、その青い目が少しだけ大きくなった。さっきまでブツブツ言っていたロックマンまでもがいつの間にか静かになっている。
熱斗は頭を掻いた。
「でも、やっぱりこっちじゃなきゃ駄目なんだよな」
たとえどんなに幸せな夢であったとしても。
『彼』はすでに此処にはいない。
もし生きていたら、きっと自分の周りは今とずいぶん違っただろう。
もしかしたら今の仲間とは出会わなかったのかもしれない。
新しい、別の出会いがあったのかもしれない。
けれどもそれは今があるから考えられることだ。叶わないからこそ考えてしまうことだ。
「そう思うなら少しは成長してくれ」
考え込むように押し黙った熱斗に、炎山はそう言うと踵を返した。
「また明日、午後から演習だそうだ。お前はもう大丈夫なんだろう?」
部屋を出る炎山が言うと、熱斗はすぐに元気良い返事とともに片腕を上げた。
確かに夢の中のほうが普通の関係なのかもしれない。
仲の良い兄弟。仲の良い親友。
しかしロックマンも炎山も、そして今の自分の周囲にいる仲間たちも、ただ『仲が良い』だけでは済まされない人たちばかりだ。
「・・・だから、戻って来なきゃいけないんだよな」
「熱斗くん?」
ロックマンがどうしたんだろうといった素振りで呼んだ。けれども根とは少し笑ってなんでもない、と首を振っただけで、あとは窓を見上げて誤魔化した。


たとえ誰もが忘れてしまっても、自分だけは覚えているから。
『彼』が一人ではないのと同時に、自分も一人ではないと教えられた気がして、熱斗はふと、自分の部屋にある写真に思いをはせて目を閉じた。




了。
作品名:Naked Mind 作家名:ナギーニョ