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おにごっこ

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ほぼ一定の速度で呼吸器の硬化プラスチックは白く曇り、またすぐに透明へと戻った。なぜ自分がこのガラスの向こうにはいけないのか、どうして彩斗が一度も目を覚まさないのか。熱斗にはよくわからなかった。
ここ数日の間、両親の笑顔を見ることはなかった。
呼吸器さえなければ、ただ眠っているように見えただろう。
『おきろよ、さいと』
熱斗の声はガラスの向こうに届いたのだろうか

程なくして、彩斗がすぐそばまでやってくる日がきた。
その手は白く、冷たく。
ベッドの脇で彼を抱きしめて泣く母親も、自分強く抱きしめる父親も、ただ怖いと思った。
彼の枕元に置かれた、熱斗とお揃いで買ってもらったPETは二度と光ることなどなかった。



「今日こそ倒してやるから覚悟してろよ、熱斗!」
担任のまり子先生が教室から出て行くや否や、カバンを抱えたデカオがまだ教科書を入れていた熱斗にそう言って走って教室を出て行った。おそらく先にいつものゲーセンで対戦台を占拠しているに違いない。
「あ、待ってよ熱斗!!」
「早くしろよ!メイル!」
鞄を背負うと熱斗は一足先に教室を出た。
最近、PETのナビ同士で対戦するネットバトルが流行っている。
本来戦闘用ではないはずのナビたちを自分でカスタマイズして、ゲーセンにある対戦台で戦わせる。教師や親たちは、これをこぞって禁止したけれども、対ウイルスバスティング用のチップに新種が出始めたことも重なって収まる気配はなかった。おかげで近くのゲーセンには平日の放課後でも子供たちが囲んでいる。
対戦台のレコード1位にいるのは熱斗だった。
『NET』のプレイヤー名は秋原町にあるほとんどの対戦台で一位に輝いていて、決まってその下にはデカオの名前があった。
いつものようにゲーセンの自動ドアを開けると、子供たちの視線が熱斗に集まったのがわかった。
けれどもそれはいつもの、強さを期待する眼差しではなかった。
「熱斗」
デカオがその向こうから熱斗を呼んだ。
対戦台の成績が表示されている。
一番上にあったはずの名前は一つ下にあり、その代わりに新たな名前が入っていた。
『ENZAN』
その時、表示された名前に向かって熱斗は好戦的な眼をしたのだった。


『ENZAN』のレコードは熱斗が何度挑戦しても追い抜くことは出来なかった。デカオとのバトルもここしばらくやっていない。
机の上に散らばったチップを『あーでもない、こーでもない』と手にとってはまた戻す、という行動を繰り返していた。
『ENZAN』本人は熱斗が学校から帰ってすぐにゲーセンに居座っているにもかかわらず一度も姿を見せなかった。
「熱斗くん、宿題は?きょうも先生に怒られたじゃない」
「あー、もうちょっとでなんかひらめきそうなんだよなー」
「またそうやって誤魔化す!」
ロックマンに言われて、熱斗は舌打ちすると顔を逸らした。丁度ベッドの枕元に置かれている写真が目に入る。
同じ顔の二人は写っている写真。いつも走り回っていた二人が揃ってまともに取れたのはこの一枚だけなのだという。
ふと、熱斗は動きを止めた。
「・・・『ENZAN』・・・えんざん・・・」
熱斗の脳裏に昔の記憶がよぎる。もうずっと昔の、曖昧な記憶。けれどもそこに出てきたのは確かに「えんざん」ではなかったか。
「熱斗くん?」
急に不気味なくらいに静かになった熱斗に、不安そうな声でロックマンが言った。
「・・・そうだよな、確かにアイツが『ENZAN』だったんだ!アイツだったんだ!」
「熱斗くん?!」
急に話を振られて、ついていけずにロックマンが困った顔をした。
けれどもそれが聞こえない熱斗はただ嬉しそうにその写真を見た。




アイツに追いついただろうか。
いまや国際ネットバトラーとして活躍するようになった彼は熱斗の知らないところでその強さに磨きをかけている。
これまで何度も炎山と戦った。全力でぶつかった時もあれば、望まぬ戦いを強いられたこともある。
何度か勝った。そして何度も負けた。
最後に炎山に負けたきり、対戦していない。昔のような興奮を失ったわけではないのに。
「大人になるって大変だな・・・」
自分よりもずっと先に大人になってしまった彼はずっとこんな気持ちだったのだろうか。
机の上で、先日受けた科学省の合格通知が風に揺れていた。


作品名:おにごっこ 作家名:ナギーニョ