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太陽にのばした手で君をつかまえて

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ポツリ、とショウが洩らした言葉を、ジャンは聞き取り損ねた。
「何?」
聞くと、ショウはなんでもないよ、と笑顔を見せる。
いつもそうやって、ショウは何かを隠していた。
けれど一度だけ、聞いてしまった。
夜の、海の音の途切れた間に、彼の声は透き通っていた。

彼は、僕が殺した。

現実のダイバーランドに帰ってきて数週間が過ぎた頃だった。その日は朝から太陽の見えない曇り空だったことを、ジャンは覚えている。けれど傘を持つ気にはならなくて。学校の荷物が重いわけではなかった。ただ、なんとなく雨は降るだろうという予感はあった。
それで、自分の家より学校から近い彼の家を訪ねた。彼は今日学校にきていなかったから。
別に連絡をとったわけではないのに、彼が家にいるということに確信を持っていた。それはここ数日の彼の様子を見ていれば簡単なことだったかもしれない。
学校の門をくぐってすぐに、足元に小さなシミがあふれた。上を見上げると、冷たい水滴が顔めがけて落ちてくる。
「ジャン!傘無いなら入れてやろうか?」
誰かにそう声をかけられたけれど、ジャンはそれを断った。走って帰るから、とわざと走るような格好をして笑った。
これくらいなら丁度いい。
春の雨はまだ冷たく、冬に戻ったかのような寒さ。ジャンは少し身震いした。
いくら春でも、さすがに寒い。少し無理をしてしまうだろうかとも思った。
けれど、彼を訪ねるにはもってこいの日のような気もした。

同じ雨を、ショウは窓の内側から眺めていた。
とうとう降り出したか、と嘆息する。
そう言えば姉さんは傘を持っていっただろうか、と考える。すぐに今朝のレナが折りたたみの傘を持っていたことを思い出して安心した。ショウにとっては一番近くにいる、安心できる肉親だ。それにこのダイバーランドでも彼女に信頼を置いている人物は多い。風邪でもひいて仕事を休んだりしたら困る。そこまで考えて、ショウは外の雨から正面のモニターに視線を戻した。
黒い画面に、緑色の電光が宿る。何度目かのスクロールを見送って、ショウは少し手元を動かした。それから完成を確認すると、背もたれに寄り掛かって背伸びをした。
ここ数日、寝る間を惜しんで作り上げてきたものが、あとはスイッチひとつですべてを終える。そう思うと、ショウは少し困ったような笑みを画面に向けた。数週間前まで冒険をしていた場所は、今は完全に閉鎖されている。安全点検が完了するのはまだ数ヵ月後の話だとレナが教えてくれた。
けれどショウは、もう二度とあの場所に行く気などなかった。たとえ行ったとしても、もうそこにあの人はいない。それが分かってしまってからは、何をしても虚しいだけだった。
こんなにも彼を愛していたんだと知る。
敵として退治していたときはただ憎いだけだったはずの存在が。
彼のいなくなる瞬間を、ショウは直接見てはいない。現実のダイバーランドに帰ってきて、大画面に映る映像で彼の全容を知った。
見てしまった。彼の姿が変わる瞬間。
ショウはそれを知っていた。そのとき初めて、自分がそれを知っていたことに気付いた。
「あれは…デリトロス…」
それまでリュウトの中にいた存在。そしてそれを入れたのは、自分だということ。
「知っていたのに…俺のせいでリュウトは…」
自分の声が、静かな部屋の中に響く。
だがその中に聞き覚えのある玄関の呼び出し音が混じっていることに気付いて、ショウは慌ててドアの方を振り返った。それが本当に鳴っているんだとわかって、すぐに立ち上がって足早にリビングに付けられたモニターを見た。
「ショウー?」
「ジャン!どうしたの!」
玄関のカメラを見ているのは、いつもはきちんと整えられているはずの髪を水で乱したジャンの姿。
すぐに玄関のロックを解いて、玄関で彼を迎える。
「本当にいないのかと思ったよ…っしゅん!」
小さくくしゃみしたのを見て、ショウは持ってきたタオルを手渡す。
「シャワー浴びる?温まるよ」
言いながらショウは断ろうとするジャンの手を引いてバスルームに追いやった。
「風邪ひいちゃうから!シャツはここにおいておくからね?」
自分用の服を籠に置くと、ジャンと目が合った。
「…何?」
「いや、なんかそういうショウも面白いなと思って」
妙な笑いを浮かべるジャンにそんなわけないだろう、と返してショウはドアを閉める。
しばらくしてシャワーの音が聞こえ始めると、ショウはドアに凭れかかってふう、と息を吐いた。
それから自分の部屋に戻ると画面をいつも通りに戻す。
「…何かしてたの?」
そのままボーっとしていたらしい。いつのまにか背後にジャンが立っていた。
「いや、別に」
ショウは机から手を離す。一通り部屋を見渡してから、ジャンはベッドに座る。
ショウの背中をしばらく見つめて、ジャンは少しだけ、シーツを握り締めた。
「…ねえ、ショウ。あの約束覚えてる?」
「え?」
他のことでも考えていたのか、ショウは驚いた顔で振り返った。
「前にさ、戦ってたときにした約束、覚えてる?」
ショウはしばらく考える素振りを見せた。
しかしすぐに思い出したのか、表情が暗くなるのをジャンは見逃さなかった。
あのときの事は、ショウにとって思い出したくないことが多い。
しかしそれだけ、鮮明に記憶に残っていた。勿論、ジャンにも。
「覚えてる…よ」
ショウが警戒しているのが分かった。少しだけ肩を怒らせて、ジャンを見据える。それがやけに奇妙に思えた。いや、そう思えたのはおそらくジャンだけだっただろう。
「ねえ、付き合ってよ、ショウ」
ショウは身構えたまま一歩あとずさった。その機会を見逃さずにジャンはショウの手を掴む。
「ジャン!冗談は…!」
その手を引っ張ってショウの体勢を崩すと、あっさりとジャンはベッドの上にショウの体を組み敷いた。
「冗談?違うよ、ショウ。僕はいつだって本気だよ?今だって」
言いながらショウの服の裾をめくってジャンの手がその肌に触れる。
「いつ頃だったかな、ショウが欲しくなったのは…」
ジャンがポツリと、語った。
「君が僕以外のやつらに笑うのも、話しかけるのも腹が立ったよ。でも、既にリュウトの物だって知ったときが一番腹立たしかったよ」
リュウトの名前を出されて、ショウの顔が青ざめる。
「ねえ、リュウトにはどんな風に抱かれた?どんな風に自分のものにされたの?」
その手が段々と腹部から胸元まで上がってくる。ジャンの存在が怖く見えた。
「…う…違う…、リュウトは…」
その目から涙をこぼして、ショウは声を絞り出した。
ジャンの手が一瞬だけゆるむ。その隙をついて、ショウはジャンを払いのけた。
「ショウ!」
体勢を取り損ねたジャンが顔を上げた時に、ショウは既にそのスイッチを押していた。その体が、画面に吸い込まれる。消える直前に、ショウは振り向いた。
「俺のせいなんだ…」
その後の声は聞き取れなかった。
ただ、彼が残した涙が床にこぼれていただけだった。

終わりの見えない宇宙を泳いだ。
けれど行き先を知っていた。
しばらく泳ぐと、大きな扉の前に立った。
何の疑いもなくその扉を開く。
そこに彼が待っているから。
だってここは、自分で作り出した世界だから。
彼のために。