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太陽にのばした手で君をつかまえて

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ショウが扉をくぐると、ダイタリオンがその扉を閉めた。
「ごめん…こんなことに君を呼んでしまって」
何も返さないまま、ダイタリオンはその姿を消す。しばらく顔を俯けていたショウは、顔を上げてさらに奥に進んだ。
部屋の突き当たり。壁と床の境界線に彼は居た。
その上半身を壁に預けて、虚空を見つめていた彼の眼がショウを捉える。
「リュウト」
名を呼ぶと、彼は長い両腕を伸ばした。すぐにその腕に迎えられて、抱き締める。

まだ心を持たぬ彼。
データの欠片だった頃の彼。
それがそこにあった。
あの時、こうしなければ彼は成長を止めていた。
ずっとこのままだった。
それは誰かが決めた運命のように。
あの時の彼の前にはデリトロス本体のデータがあった…。

しばらくの呼び出し音の間に、ジャンはまず何を言うかを迷っていた。
いきなりショウのことを言ったら、彼女はどんな反応をするだろうか。けれど他に言葉が浮かばないまま呼び出し音は止まり、抑揚のあるレナの声が聞こえた。ジャンはすぐに、自分がショウの家に居ること、そして目の前で起きたことを話した。話が進んでいくほどに、レナが息を詰めるのが分かった。
「すぐに戻るから」
最後にそう言ってレナは電話を切った。
機械音のなくなった部屋には、雨の音だけが響いていた。

もう何時間が過ぎただろう、とショウはリュウトの肩に寄りかかっていた体を起こした。いや、意外に時間はそう経っていないのかも知れなかった。ここには時間の感覚などないのだから。ただ永遠の時が保証されているだけで、気にする必要などない。
「リュウト?」
不意に、リュウトの体が微かに動いたことに気付いて、その顔を見上げた。
その視線は、正面の一点を睨んでいる。すぐにショウはその理由に気付いた。
扉の向こうに誰かが居る。
絶対に入らせるつもりはなかった。この安寧の地に他人を入れることは最も許しがたいことだ。
「…誰?」
元々電脳世界に入ること自体、子供に限られている。その中で人物を特定するのは、そう難しい事ではなかった。
「ショウ、ここを開けて」
恐らくショウの歩いた跡を辿ってきたのであろうジャンの声に、ショウは声を出すことなく首を振った。しばらくの沈黙のあとに、ジャンが扉を開けようとする音が聞こえる。
「無駄だよ、絶対に開けない。開けれるのは僕とリュウトだけなんだから」
再びリュウトの肩に凭れかかって、ショウはゆっくりと言った。
その音が止む。きっともう諦めてしまったのかと、ショウはその目を閉じた。
「ショウ、聞こえるんだろう?」
ショウは何の反応も返さなかった。けれどジャンは次の言葉を紡ぐ。
「ごめんね、ショウ。焦ってたんだ、君が他の人のものになってしまうような気がしたから。恐かったんだ…約束だけじゃ不十分だったんだ…本当にごめん」
一息で言ってしまうと、ジャンは扉から手を離した。ショウは体を起こしてしばらくドアの方を見つめていた。
「それに、君の姉さんのことも聞いた」
言われてショウは驚きで目を見開いた。
「結婚、するんだってね。でも君があまり嬉しい顔をしないから迷ってるって言ってた」
「そんなこと、あるわけないだろ!」
叫んだショウの声は、説得力に欠けた。声が潤んでいたのが分かってしまったから。
「やっぱり、反対なんだ?」
そんなことない。ただ一言言えばいいはずなのに声が出ない。
本当は、ずっとそばに居て欲しかったのに。でもそれは彼女の幸せを奪うことだと知っている。いつまでも子供のようなことは出来ないと、心のどこかが訴えるから。けれど誰かに愛して欲しくて。ずっとそばに居て欲しくて。
「だから此処を選んだの?」
ジャンの言葉が胸に刺さる。
まるで小さな子供のように、自分の中に逃げて。けれど大声で行かないでと泣きじゃくるのは怖くて。
「ショウ、帰っておいでよ。哀しいのは君だけじゃないんだから」
何を哀しんだのだろう。
不幸なふりをしている自分を憐れんだのかもしれない。
誰かに自分は不幸だと思って欲しかったのかもしれない。
「君が此処から出て来ない限り、幸せにはなれないよ。君も、君の姉さんも…僕らも」
ジャンの言葉は、暗にショウの隣に居る人物を指し示しているようだった。
「彼のせいにして逃げちゃダメだよ」
ショウの目から涙が落ちる。
「でも、本当に僕は彼を…僕が殺させたんだ…あの時」
不完全だったリュウトにデリトロスのデータを入れなければ。
彼はまだ、救われる価値があったのかもしれない。
もっと永らえていたのかもしれなかった。
「リュウト」
呼ぶより早く、リュウトは片手を空に差し出した。
静かに扉が開き始める。
行け、とでも指すようにリュウトはショウの目を見据えた。
「けれど本当に、僕は彼が好きだった…幻想かもしれないけれど、一番、好きだった」
どんなことをされても、彼だから許された。
決して認められるはずのない関係でも。
「ごめんね…リュウト」
ショウの体が扉を抜けた瞬間に、その向こう側はみるみる間に塵と化した。

もう二度と出会うはずのない存在。
けれど確かに、心の奥に潜んでいる。
居なくなってもまだ、心の奥で生きているから。

ゆっくりと、宙に舞う一粒の涙を残して、ショウの体は現実へと戻り始めた。