GOD BLESS YOU
結局、その後はなし崩しに宴会モードに突入して散々たかってきた。まぁ普段からこき使われているんだし、上級佐官な上に国家錬金術師の財布だ。多少の事では減った事すら判らないくらい持ってるだろうし、気にしない。
男におごるなぞ嫌だ、とまた厭な事を散々宣っていた上官は、また書庫に籠もる気なのか、中央司令部への道を淀みなく辿っている。
そのまま帰っても良かったはずだが、仮にも上司をこんな時にこんな所で放り出すわけにもいかず、結局、護衛もどき2人はある程度の距離を置いたまま、その後についてのこのこ歩いていた。
既に季節は変わり、夜ともなるとかなり冷え込んでいる。
しこたま飲んできた為にそれほど寒くはないが・・・、
ッし
・・・何か今、らしくもなく微妙に控えめなくしゃみが前方から聞こえたような。
「bless you」
笑って、小さく呟く。
・・・少しの既視感があった。
そう前の話ではないが。何となく同じ事があったような気がする。
「――――くしゃみすると魂が飛び出すって誰が言い出したんだろうな」
「ついでに何でこんなまじないするようになったんだかな」
昔からの風習なので多分誰も深く追求したりしないんだろう。
そこに意味はあったのかもしれないが、いつしか言葉だけが残ったのかもしれない。それか、もしくは雑学激しいあの人なら知っているかも、と思いかけて止めた。
彼ら、錬金術師は神を認めない。
それでも目に見えないものの大きな流れを知っている。
形を持たない魂の存在は信じている。
それは何だか不思議なものだと思った。
自分にはそこの区別が一体何処にあるのか、どう線引きされるのか、そんな事は全く考えた事もなかったので。
神は何だ。
人は何だ。
魂は何処にあるんだ。
そして死ねば魂は何処へ行くんだ。
そんな事は考えた事がない。そんなふうに思った事がなかった。
空を仰げば、中空に金色の光を落とす月が見えた。
・・・ああ、そうだ。
あの時だ。彼女と歩いていた時のこと。
あの日は少し肌寒くて、隣から小さなくしゃみが聞こえた時に、さっきと同じように。
「……知ってるかと思ったんだけど」
誰もが知る筈の、古い祈りの言葉。
「God bless you」
「何だいきなり。改宗でもする気か?」
「いや、別に。・・・そう、普通は知ってるよな」
ありきたりな言葉だ。
貴方に幸運がありますように。
お大事に。
親から子へ子からまたその子供へと、もうずっとずっとくり返し唱えられてきた、まじないの、祈りの言葉だ。
そう、誰もが知っているはずのあの言葉を。
何処かへ行ってしまわないように、魂を護る言葉だと
そう言えば、彼女は初めて知ったと言いながら、興味深そうに聞いて少しだけ笑ってくれた。
何処から来たんだろう、あの女は。
あの時見せたほんの僅かな笑みが焼き付いたように離れない。
一瞬だけ消えた表情。
その後の僅かな笑みに滲んだ想いがなんだったのか、結局最後まで判らなかった。
ただ、きっといつまでも残り続ける。
end
作品名:GOD BLESS YOU 作家名:みとなんこ@紺