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ぼくの・きみの・将来の夢

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「大体なんで18にもなってこんなもん書かなきゃなんねぇんだ」

静雄は机の上にのっている白紙の原稿用紙に対する苛立ちを遠慮なく向かいで呑気に解体新書を読んでる新羅にぶつけた。窓の外はだいぶんうす暗くなっていて、ビルの向こうにかろうじて細いオレンジの線が見えるほどになっている。1月の夕方の空はなんだか物悲しくて早く家路につきたくなる。新羅は教室にかけられている時計に目をやった。5時を過ぎている。ドラマの再放送見たかったのになあ。彼は同居人がそれを録画してくれてることをこっそり祈る。そしてとっととそのかわいい人がいるあったかい家に帰りたかった。

彼らはひとつの机を間においてはす向かいに座っていた。白い原稿用紙は1時間前からあまり進歩が見られない。

あんまり知られていないが、この付近で最強と謳われている平和島静雄を苦しめるのは案外簡単である。彼は国語力と文章力にあんまり長けていないので、それに関する課題によく唸っているのを新羅をはじめ彼のまわりにいる数少ない人々は知っている。長けていないっていうか漢字が書けないのがまず第一の問題なのだけども。
彼に課せられた課題は卒業を前にした学生が一度は立ち向かうものだった。『わたしの将来の夢』

静雄はさっきからぐるぐるシャープペンをまわしつづけていた。新羅はもはや自分が書いた方が早いんじゃないかなあと思い始めていた。
そもそも彼がこんな時間の浪費でしかないことをはじめた原因は静雄と自分の食欲にあった。作文は得意じゃねぇからつきあってくれねぇか、学食くらいなら奢るからよ・・・新羅はちゃっかり学食で最も高いSセット(ごはん大盛り・具だくさん野菜炒めと生姜焼き・ごまどれサラダ・味噌汁・デザートという男子学生の胃袋に大変優しいものだ)を頼む気でふたつ返事でOKを出したのだ。正直今では後悔している。彼の中では食欲よりも同居人との甘い時間の方が断然比べ物にならないくらいに大切だからだ。30分もあれば終わると思ったのが、滅多にない新羅の計算間違いである。

「なぁ、お前はなんて書いたんだよ」
「ぼく?ぼくは、好きなひとと一生一緒にいれますようにって書いたよ。あとついでに医者って」

ついでかよという突っ込みとこいつのは何の参考にもならんかったことを静雄は噛みしめて、また自分を苦しめる原稿用紙を睨んだ。ていうかそれは夢っていうか願い事じゃねえのか・・・?これは短冊じゃねぇぞ新羅。

タイトルと名前だけが書かれているそれの提出期限はあと50分と迫っていた。つまり午後6時である。

「静雄はさぁ、小さいころなりたかったものとかないの?」
「・・・」

静雄は記憶をめぐらす。この人並み外れた力を知ったときから彼は自分が普通じゃないと理解していたので、普通の人生は願ってはいけないのではないかと思っていた。なので彼が臨む切なるものは平穏な人生、それだけである。それでいい。とりわけ特別なものになりたいわけじゃない、ただ弟と、それこそ彼ら二人が共有している名字同様、平和に暮らしたいだけだった。それが言うならば将来の夢であるので、現在静雄は苦しんでいるわけで、結局は堂々めぐりになる。彼は嘘が苦手だったので適当にでっちあげることもできなかったし、自分の臨むものを上手く文章にすることもできなかった。

「なんかさあるでしょ?正義の味方とかさぁ」
「寒いこと言うなっ」

そんなキャラではないことは静雄自身が一番良く理解していたので的外れな意見を出した新羅をぎっと睨む。殴らなかったのは、こんな時間までつき合わせてしまっている、彼なりの罪悪感からだ。

そういえば。

しかし静雄は弟からとても遠い昔に言われた言葉を思い出す。

「兄さんは、ヒーローみたいだ」

弟は、幽は自分と間逆で感情を表に出さないので、よく他人から誤解を受けやすい。感情がわかりやすいからといって誤解されないわけじゃないのだけど、それはまた別の問題で。

なので彼はよく、なんていうか、あんまり頭のよくない人種に絡まれやすかった。小学生のころはこいつ全然笑わねぇんだよっていう彼らの狭い一般から外れている嫌悪から絡まれ、中学になれば人の彼女とりやがってという一方的な恋愛トラブルに巻き込まれ、しかしそれでも幽は幽なので、怖がりも申し訳そうな顔もしないので、それらはますますヒートアップする。
その度に静雄が仲裁という名の暴力でそれらをおさめていた。高校になれば平和島静雄の弟ということでもう幽に手を出す阿呆は学内にはいなくなっていたけれど。

兄さんは、ヒーローみたいだ。

多分あれは幽が小学生中学年のころだった気がする。自分の暴力からくる弟への偏見に、大分追い目を感じ始めたころだ。だから静雄はびっくりもしたし、嬉しかったりもした。はじめて自分の力を肯定された気がして、うっかり泣きそうにもなったりしたのを思い出し、少し穏やかな気持ちになった。



とはいえ将来の夢とは無関係なわけで。



静雄は自分の頼りない脳みそをフル活動させる。もはやここまできたらなんでもいい気がしてきた。この力を活かしてSPとか、ボディガードとかになるとかでいい気がしてきた。ちっともよくないのだけど。そして彼の予想はなんとなく数年後当たるのだけど。

静雄が頭を抱え、新羅が解体新書を読み終えたところで教室のドアが開いた。その人物に新羅はうげっと思った。そしてやっぱり帰ればよかったと思った。もう帰ったとばかり思っていた臨也が入ってきたからである。

「あれ〜なんだまだ残ってたの」
「っ・・・ノミ蟲ッ・・・!」
「なに?シズちゃんも作文?」

原稿が進まないことでただでさえいらいらしている静雄に油を注ぐように臨也が、人を小馬鹿にするような笑顔をもって近づいてくる。静雄は威嚇するように臨也を睨む。新羅はちょっと泣きたかった。とりあえず臨也が静雄の怒りに対する地雷を踏む前に話題をふってみた。

「シズちゃんもってことは、君も作文で残ってたのかい?」
「ああ、言っておくけどシズちゃんみたいに全く筆が進まなくて残ってたんじゃないからね。ちゃんと書いたさ。だけど再提出になっちゃってねぇ」
「ふうん。ところで君の将来の夢ってなに?すごい興味あるんだけど。一体どういう内容で再提出になったのか」
「え?シズちゃんのお嫁さんって書いただけだけど?」

ぺろっととんでもないことを言ったクラスメイトに新羅が悪寒を覚えたのと、その向かいで何かが折れる音がしたのはほとんど同時だった。ああ静雄のシャーペン折れてるっ・・・新羅は逃げるのコマンドを迷わず選択した。こいつに話しかけたのが間違いだった!!今日の新羅はよく間違いをおかす。そういう日もときどきはあるのだ。


「てっめぇぇぇなにきっしょいこと書いてんだ!!あぁ!!?」
「きしょいってひどいなー。俺はすごく真剣なのに」

やれやれといったポーズを臨也がとるので静雄は自分の血管が数本切れる音をきいた。これは殴っても机を投げても悪くはねぇよなぁ。正当防衛をとなえて静雄は勢いよく椅子から立ち上がる。新羅のすがたは既に教室から消えていた。当然である。

「その腐った頭つぶしてやるよッ・・・!」
作品名:ぼくの・きみの・将来の夢 作家名:萩子