ぼくの・きみの・将来の夢
「やだっシズちゃん未来の妻に対してそれはひどいんじゃない?」
「誰が妻だ!!」
机が宙を舞って、臨也のもとに飛んでくる。まるでボールを投げるようなモーションであるが一般的な学校に置いてある学習机である。片手で投げられるもんじゃあない。そして臨也はドッジボールでボールを避けるようにそれを避けた。繰り返すがボールじゃない。机である。不穏な音が背後でした。机が教室の廊下側の窓を通過したらしい。ガッシャーン。
「今日こそ息の根止めてやるっ!」
「それにしても先生もひどいよねー、俺正直にシズちゃんの嫁になって子供は3人、男の子2人、女の子1人つくって、日曜日には庭でキャッチボールするような平和な家庭を築きたいですって書いたのにさぁ」
「おまえほんとしにたいらしいな!!」
「恥ずかしいのがまんして書いたんだよ!それなのに書きなおしって・・・次はシズちゃんの婿になるって書こうかな」
「黙れぇっ!」
静雄は少し教師に同情した。だけど一番かわいそうなのは自分である。全く会話が成立していないけれどとりあえず臨也が死ぬほど鬱陶しいことだけはわかっていたので静雄は次々と教室にあるものをあるだけ投げ飛ばしてみる。明日の朝に教室に来たクラスメイトはそれで全てを理解するだろう。ああまた平和島が暴れたのか。それで許されるところまで高校生活の3年間で辿りついてしまったのが彼の不幸でもある。
課題の提出期限が10分前と迫った今、やはり静雄は自分の正直な気持ちを書こうと決めた。彼の将来の夢はただひとつ。机とか投げたりしない、怒鳴ったりしない、同性に求婚なんてされない、弟との平穏な日常、ただそれだけだった。あとこいつが消えてくれれば文句はねぇんだけどなぁと静雄はせつせつと願うばかりである。
作品名:ぼくの・きみの・将来の夢 作家名:萩子