二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ちむろく

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 忘れればいいんじゃないの、音楽を。ロックを。
 冗談、それを忘れて肥え太るぐらいなら死んだ方がマシだろ。
 それならやっぱり、ロックは人を殺すよ?
 ロックは人を殺さないよ。胸に熱情を残すけど。
 じゃあ、ヤツらは何で死んだの?
 本当のロックじゃなかったから?
 本当のロックって何よ?
 自分の中にある音に突き動かされ続けることじゃないのか?
 それって、あの人のこと?
 あの人?
 あの人。

 ああ、そう、あの人。

 あの人に説明は不可能で、あの人を説明することも不可能。
 己の本能にまかせて音楽を奏でる、あの人。
 ジャガーさん。
 すげえなあ、ロックだ、あの人。
 音楽を志すものの究極のひとつの形。思考も思想もなく、ただ彼の中には音楽がある。
 どうりで会話が成り立たないはずだよなあ。
 不思議な笑いが、腹の底からこみ上げてきた。僕は堪えきれずクスクスと笑い出す。すごいなあ、ジャガーさん。誰よりもロックなあの人。そしてそんな選ばれた人が選んだ楽器が『笛』。
 けどさあ、笛はかっこよくないだろう。むしろ。
 笑いは至って、僕の脳を空っぽにしてゆく。白くくらんだ脳に、笛を取るジャガーさんの笑顔が浮かんだ。
 ああ、きっと僕はかないません、ジャガーさん、あなたには。
 解放に至り、空白の脳に焼き付けられたジャガーさんの姿はあんまり強烈で僕の胸をあっという間にしめる。
 どうする、僕。 ジャガーさんをカッコイイって確定で思っちゃったよ?
 ずるりの音にドキドキしたのと同じだよ?
 笑いは止まらずどんどん大きくなる。僕は腹を抱えて転がった。
 むしろこのドキドキは恋かもよ?
 恋じゃなくて、ぁぃと言うなの憎悪?
 腹が痛い。涙が薄く目に溢れる。ヒー。
 涙を抑えた手の隙間から、ドアのを薄く開けておどおどと部屋の中の様子を見るジャガーさんが見えた。きっと僕の様子がオカシイから、少々ビビっているんだろう。
 かわいいなあ、もう。
 フッとそんなことを感じて、僕はぎょっとした。何だ今の笑えない感想は。ありえん。二つ三つ首を横にふるう。何となく気恥ずかしくて、ジャガーさんの方を見れなくて、顔を背けるような姿勢をとってしまう。
 ああ、きっとジャガーさんは今、ひどく寂しそうな表情をしていることだろう。捨てられた子犬のように。
「……入ってきていいですよ」
 なんとなしに染まる頬に、ジャガーさんの方を見ずに言う。なんで僕こんな照れてるの。バカみたい。
 ふん、とジャガーさんの方を見ると、ジャガーさんは表情をぱあっと笑顔に変えて、出ていったときと同じように、部屋の中へ駆け込んできた。
 僕は、そんなジャガーさんの表情を見つめながら、ああ、こんな風に音楽も自然に手懐けられたらいいのにな、と思った。
作品名:ちむろく 作家名:ミシマ