She is SUPERNOVA
なんとも言うことができず、ただ呆然としていたら、彼は許しを請うようにエドワードの足の甲に口づけてきた。驚いたのは、勿論行為にだが、その時初めて自分が裸足だったことに気付いたせいでもある。そんなにも逆上していた自分に気づき、エドワードは急に恥ずかしくなった。
そうしたら、そんな彼女に気づいたように彼は立ち上がり、お許しを、そう囁いて彼女を横抱きに抱え上げたのである。再び驚いたエドワードだが、否定しようという気は起きなかった。
「……名前は?」
額に手を伸ばした。今にして思えば、その時の彼の額には、あまり大きなものではなかったけれど、確かにヘッドコンデンサが載っていたのだ。額というか、なんというか…。どうにかすると、飾りのようにも見えたものだが。深い青い色をした、クリスタルが。
手を当てればクリスタルがエドワードを認めた。
「――ロイ、と」
ロイ、と呟けば、彼は嬉しそうに笑ったものだった。
…その時エドワードは、自分の屋敷を襲った強盗が、自分と姉妹のように育ったファティマを無残に殺したことに逆上し、裸足で屋敷から追いかけ、今まさに殺害せんとしていたところだった。逃げた強盗の車は既に爆破し、瀕死の状態の強盗数人が地面には転がっていた。その息の根を止めようとしたところで、ロイは割って入ってエドワードの気をそらしたのだった。
そうして彼が今よりさらに幼かった少女を抱き上げた所で、遅ればせに軍が出張ってきた。襲われた彼女の屋敷が、星団有数のファティママイトの屋敷だったために、軍が直接動いたのである。
エドワードは強盗を殺しはしなかったが、幼い少女、恐るべき騎士の力を秘めた少女は、国にとって脅威となった。もしも彼女の父が星団に並ぶもののがないといわれるマイトでなかったら、各国首脳と昵懇でなかったなら、そして彼女の母親が聖帝国と縁あるものでなかったなら、彼女の将来はそこで閉ざされていたかもしれない。
ほとぼりが冷めるまで、他の星へいってみるかい? それが、娘に甘い父の提案だった。彼は、うちの娘をどうこうする気なら、今すぐ私の「娘たち」のマインドコントロールを外して星団に反乱をおこす、ととんでもないことをのたまい、娘の命を救わせた。
そうしてエドワードが屋敷を出たのが、十二の年だった。
「…早く、みたいな。黒騎士の兄弟機ってことは、かっこいいんだろ?」
「そうですね。私は星団一だと思っていますよ」
にこりと笑う男に、少女は珍しく屈託のない顔で笑い返した。ロイは目を瞠る。
「楽しみだ」
エドワードはまだ彼女のファティマのモーターヘッドを見たことがない。なんでも彼によれば、放浪の間、封印してあったのだそうな。今は世直しをしつつ、その封印の地へと向かう旅の途中でもある。本当ならそんなに時間をかける旅でもないのだが、あちこち寄り道するものだから、まだたどり着けないでいた。
「…ええ。私も楽しみです、」
ソファを降り、少女の脇に跪くようにして視線を合わせ、男は笑った。あの日、裸足で、狂気寸前の怒りに身を燃やし飛び出してきた少女を見た時、運命だと思ったのだ。彼女こそ、自分のマスターだ、と。
「マスター」
そう呼びかける相手をもつ、ファティマだけがもつ幸せをかみしめながら、彼はこれから機能停止する日までずっと彼女を思い続ける甘い痛みに目を細めた。
作品名:She is SUPERNOVA 作家名:スサ