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She is SUPERNOVA

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 さて一方。突如現れた顔は恐ろしく綺麗だが凶暴で生意気な少女にあっさりひねられてしまった無法者たちは、当然怒り狂っていた。当たり前だ。
「どうなってんだ、一体!」
 放り投げられた男はあちこち骨が折れた悲惨な状態だった。近隣の人間からしたら因果応報、自業自得というものだが、彼らにとっては勿論そんなはずがない。そんな殊勝さなど、生まれた時に母親の腹の中に置いてきたような連中だ。
「わからねえ、いきなりチビの女が…」
 治療機に入りながら、襲撃を受けた男は情けない顔で訴える。だらしねえ、と毒づきながらも、これは一味に対する宣戦布告も同然と悪党連中は考えた。
 考えたのだが。それはもう、ありとあらゆる報復を。だが。
「だああああれが、チビだってえええええ!」
「ひえっ」
 どこかから鬼か悪魔かといったどすの利いたどなり声が聞こえてきて、全員が背筋を伸ばした。声にさえ殺気がこもって聞こえるような、そういう大音声だったのだ。

 どごおおおん!

「うわあああ!」
 空から何かが降ってきた。人間だ。普通人間は降ってくるものではないのだが、相手に常識は通用しなかった。巻き込まれた悪党こそいっそあわれだったかもしれない。…悪党に情けは無用だけれども。
 ――空から降ってきたというか、おそらくどこかからとんでもない、ありえない跳躍をしてきたらしい人物は、着地というか蹴りの目標時点をクレーターにしてくれた。
 隕石…? クレーターって…隕石?
 男たちはぞっとした。人間相手なら彼らはいくらでも悪どくできる。どんな非道でもお手の物だ。だがしかし、相手が人間ではないとしたら、そんなことできるわけがない。一団には騎士くずれもいたが、これはもう、そういうランクの低い、何かの間違いのように騎士の血が出てしまったような人間にはもはやどうにもできない相手だった。
「おらあ! 今チビっていったやつ出てこい!」
 クレーターの中心、目を吊り上げて怒鳴りつける美しい金色の少女。彼女は、要するにもはや「人間じゃない」。いずれ優れた騎士なのは疑いない。もっとも、この言動とけんかっ早さを鑑みるに、どんな騎士団に属しても問題を起こすことは想像するまでもなかったが。
「マスター。穏便に」
 いまさらというようなことを、主人であるらしい少女に続いて着地したいい男がのたまった。本当に今さらである。
「お、…おまえら、一体!」
 もはや反撃する気にもならず、それでも誰かが悲鳴のように叫んでいた。いや、もうそれは悲鳴だったのに違いない。

 ファティマのように可憐。
 ドラゴンよりも凶暴。

 しばらくのち、その言葉で知られるようになる少女騎士は、このころまだそこまで有名ではなかった。なかったが、それは悪党たちにとって不幸以外の何物でもなかった。
「正義の騎士、エドワード・エルリック様」
「と、そのしもべです」
 漫才のようなかけあいだったが、笑える人間はいなかった。笑うどころか、声も出ない。恐怖で。
「悪党ども、覚悟しなっ!」
 少女は目をきらきらと輝かせ、びしいっと人差指で(小)悪党連中をぐるりと指差す。…彼らには、死神の死刑宣告にさえ見えた。
「マスター。ほどほどになさいませ」
 その後ろについているのは、使い魔の黒猫にしては大きすぎたが。

 一時間もかけずに一味を壊滅状態に追い込み、その所有していた資産については街の入口へ、ぐるぐると拘束した悪党と一緒にエドワードは置き去りにした。
 その、もしかして二十センチ近くあるのでは、と言いたくなるハイヒールの音も高らかに去っていく小柄な後ろ姿、その身に纏う鮮烈な赤は、ほどなくして星団中に知れ渡ることになる。
 ――エドワード・エルリックを見たらけして逆らわないこと、と。

「骨のない連中だったなー」
 ドーリーの居住区でだらしなく足をのばしながら、少女はぼやいた。動きやすさ重視のためかなりのミニスカートから、おしげもなく白くしなやかで細い脚をのぞかせて。普段はそこに耐ショック仕様、大気圏突入でも燃えませんというのが謳い文句のタイツを履いているのだが、今はすっかりおくつろぎのため脱ぎ捨てている。
「そうそう骨のある連中に当たったら困ります」
 彼女とは対照的に、ソファに礼儀正しく腰掛けた美丈夫は、あくまで和やかに答えた。
「だあって。つまんないじゃんか」
「つまらなくていいじゃないですか。…母君とのお約束をお忘れか?」
 最後にくすりと笑ったのは、おそらくからかいと嫌がらせと軽いいじめだ。少女は白い頬をかっと染めた。
「母さんの名前出すのは卑怯だぞ! この陰険ファティマ!」
「陰険とは御挨拶ですね。こんなに心穏やかなファティマを捕まえて」
「…むしろおまえがファティマだっていうのが、星団七不思議じゃないかと思うんだけど」
 そこでエドワードは真面目な顔をした。
「おれもよく騎士の例外っていわれるけど、おまえなんてもっとひどいだろ」
「心外です」
 言葉ばかりは丁寧なものだったが、動じていないのは表情を見ればよくわかった。
 …そう。彼にはものすごく表情がある。おまけにコンタクトレンズは申し訳程度で透明だし、ヘッドコンデンサも普段は取り外しているときた。服だってほとんど人間と変わらないし(素材の面でやはり人間と同じものは着られなかったが)、口調は丁寧なものの、平気でエドワードに逆らったりからかったりしてくれる。
 マインドコントロールを外されているのだ。彼は。
 しかも、それだけではなく――
「…黒騎士に兄弟機があったなんて」
 男はそれには答えず、くすりと笑い目を細めた。
 黒騎士といえば、シンクロナイズドフラッターシステムにより、専用機であるバッシュ・ザ・ブラックナイト騎乗時には本来の性能の二倍の能力を表すという、ファティマ・エストともに知られる。彼女に選ばれた騎士はすなわちバッシュのマスターでもあり、騎士自体が黒騎士と呼ばれる。
 エストとバッシュが同時に開発されたことはよく知られていたが、そこに至る前に、実験的に似たようなことが行われていたことは誰も知らなかった。そして、その誰も知らない存在が、エドワードの前にいる男なのだという。
 エストはモラード公のファティマとして有名だが、ロイはモラード・ファティマではない。といって、ファクトリー製でもない。それは確かに、扱いづらく育てにくいだろう男性ファティマなど、ファクトリーで作られるわけがない。彼が言うには、彼のマイトは既にこの世の人ではないとのことだった。
 彼と出会った時のことを、エドワードは今でも、あれは夢だったのではないか、と思うことがある。
 色々と事情があって実家を、本国を飛び出したエドワードの前に、彼は突然現れた。感情の箍が外れていた当時の彼女は、ソニックブレードを容赦なく彼に向けて放った。しかし、それは一切当たらず、彼は何事もなかったかのように微笑み、エドワードの前に跪いたのだ。
 そして言った。
「マスター」
 エドワードは毒気を抜かれて動きを止めていた。そして、自分の前に頭を垂れる男を見つめていた。彼はゆっくりと顔を上げ、もう一度微笑んだ。
「お許しを。…どうか、マスター」
作品名:She is SUPERNOVA 作家名:スサ