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はじまる一週間 (木曜日)

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静雄はぎしりと喰い千切らんばかりに歯噛みをした。とかく自分にはこういった経験が無い。暫くどう対処すべきか考えた後、羞恥を振りきって眼前のトムを見れば何故か距離を取られていた。
「トムさん・・・。」
「どうした静雄、なんて書いてあったんだ?」
これはまずいんじゃないのか、とトムは身体を伝う冷や汗を拭った。まずい、とトムが称するのは静雄とその恋人の関係ではない。今自分たちがいる、店が壊れないかというトムにとってもっと現実的な問題のほうである。
静雄の、携帯を持たない方の手が小刻みに震えている。メールの内容に、一体なんと書かれているのかはわからなかったがこの静雄の事である。今までのように、彼女の事を放ったらかしておいて別れでも告げられたのだろうか。
トムには、静雄が珍しく他人に執着している様に見えていた。それは今日起こっている静雄の行動も勿論だったが、携帯を見つめる時の目の色だったり街中を歩く時の何かを探すように動く頭だったりが余計にそれを裏付けている気がする。
ならばこそ、そんな恋人に別れなんて切り出されようものならば。
トムは静雄を人殺しにはしたくなかった。
「トムさん!」

店内に大きな音が鳴り響いた。先程まで、ようやっと静雄の存在に落ち着きを取り戻した店内が耳鳴りがする程静かになる。大きな音の正体は、静雄とトムを挟むテーブルがばきりと静雄の手によって粉砕された音だった。
更に静雄と距離をとっていたトムに、静雄は頭を下げるような動作をして携帯を握りしめた。羞恥から熱が集中している顔を見られたくはなかった為である。

「で、でーととか、どうすればいいんすかね・・・。」

目の前で、本当にこいつは成人しているのかと思うような質問を繰り返す同僚を前に、トムは隠すことなく溜息を吐いた。とりあえずとばかりに、着ているスーツに付いたテーブルの破片を払い落とす。ぶるぶると震えている目の前の静雄を見て、更に店内の集まる視線に俯いた。暫くはこのファーストフード店に来ないほうがよさそうである。
「とりあえず、教えっから場所変えよう。」
五月蝿さを増した店内を出てから、トムは隣を歩く静雄を横目で見て思う。
(今回はずいぶん面倒なことになりそうだ)
紫のライトが照らす、夜の顔へと姿を変える池袋の中で、静雄の携帯がもう一度小さくその手の中で震えていた。



(周囲にばれる木曜日)


2011/09/21