【NO.6】繋がるひととき
「ぼくはきみのママじゃない。」
笑いながら紫苑が言えば、
「おれだってこんなに手のかかる天然のママは嫌だね。」
とネズミが返した。
ひどいな、と紫苑が少し唇を尖らせながら、ネズミにスプーンを差し出す。その口調や口元とは裏腹に、目は笑ったままだった。
ネズミの喉元がごくりと動く。
「お味は?」
「陛下のお見事なスプーンさばきで、いつもの何倍も美味しく感じます。」
「それは、どうもありがとう。これからも精進しよう。」
妙に芝居がかった紫苑の返事に、ネズミが呆れたように笑った。
「なんの寸劇だ、これ。」
紫苑は吹き出した。
「イヴ様の舞台だ。最高の演劇じゃないか。金が取れるぞ。」
「確かに主役は一流だ。でも誰かさんのせいでコメディにしかならない。困ったもんだ。」
そう言ってネズミがちらりと紫苑を見る。彼らしからぬそのわざとらしい仕草に、紫苑はまた吹き出した。
芯まで凍りつくような冬の夜。小さな部屋の片隅で、旧式のストーブが燃えている。
二つの手はささやかな食事の後も未だ繋がれたまま、いつしか同じ温度になっていた。
作品名:【NO.6】繋がるひととき 作家名:加賀