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座敷童子の静雄君 2

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座敷童子の静雄君 after2





ふと気づいた事がある。
俺の身って、もしかして危なくねぇか?

なんせ、精神だけこっちの世界に飛んだなら、身体はきっと無防備のまま新羅の家に転がってる筈。
つーか、俺の体……、今、息あんの?
気づいた途端、たらたらと冷や汗が流れ出した。

マッドな闇医者が、これ幸いと勝手に解剖しやがってるかもしれねぇ。
幸い、新羅が熱烈に愛しているセルティは自分の親友で常識人(妖精)だ。きっとあの男の魔の手から、必要最小限命の保障ぐらいしてくれていると……、信じてる。
(マジで頼む、セルティィィィィィィ、俺を守ってくれよぉぉぉぉ!!)


「しずおくーん、夜更かしは駄目。ねんねの時間ですよ~♪」


居間の掘りコタツに足を突っ込み、TVを見るふりしてセルティに祈っていたら、にこにこな帝人にひょいっと抱っこされた。
古めかしい振り子付の柱時計を見れば、時刻はもう23時を越えている。


結局、元の世界に帰れなくなりジャスト11日目。

仕事がクビになっているのはもう覚悟したし、馬鹿新羅にメスで切り刻まれる身の危機の恐怖も頭の片隅に追いやり、今夜も彼女と一緒に温泉旅館で敷かれるみたいな厚みのある気持ちよいふかふか布団で就寝だ。


(俺、本当に……これからどうなっちまうんだろう?)


すぴすぴと安心しきって眠る、彼女の【安眠抱き枕】役もすっかり板についたが、薄い胸に顔を埋めたって嫌がられないのは、成人男性として如何なものかとちょっぴり悲しい。
(せめてチビじゃなければ……俺、こいつの彼氏になれたのかな?……)
彼女の命を助けたのは自分だし、超常現象に耐性がある。
きっと池袋の【自動喧嘩人形】と渾名され、暴れまわる自分を見たって、きっと怖がらないでいてくれる。
それに、白龍ばばぁにも宜しくと頼まれているし、帝人を貰っちまっても構わない筈。

(…恋人…なら、キスしたり、あっちこっち触ったり、抱いちまっても……、へへへ……へへへへへへ………)
嬉し恥ずかしな妄想が脳裏を横切り、ぼぼんっと勝手に顔が赤くなるが、それ以前に今の自分は幽霊だった。
叶う筈無い夢を見るのは空しいし切ないとふと気がつき、がっくり肩を落とす。
彼女居ない暦23年間の記録は、今後も驀進する運びとなった。


でも…。
帝人が毎食作ってくれる、健康的な野菜中心の和食メシはサイコーに美味だし、臨也に邪魔される事のない『美少女と二人っきりで、のんびり憧れの田舎暮らし』だ。
俺って今幸せだ♪とヤケッパチにならなくたって、ゆったりまったりなスローライフは滅茶苦茶性に合っていて。
いっそこのまま、ここに一生住み着いてもいいんじゃねーか……と思った翌日、平穏な日常は突如破られる事となった。


★☆★☆★


「みっかどぉぉぉぉぉぉぉぉ、何なのこれ一体!! に、庭がぁぁぁぁぁぁ!!」

早朝7時ちょい前、鼓膜を刺激するキンキン声に、静雄はびっくり目で飛び起きた。
同じく飛び起き、反射的に敷布団の上で正座して、カッチンコッチンに固まった帝人を見上げれば、広いオデコから覗く眉毛が泣きそうなぐらい情けない八の字型に下がっている。

「あああああ、お母さん達だぁぁ……、帰国、……夜だと思ってたのにぃぃぃ……」


どうやら両親が、旅行から帰ってきちまったらしい。
庭の見てくれだけは、二人で必死こいて何とか整えたと思ったが、所詮素人仕事。
日が暮れてりゃ誤魔化せただろうが、日の光の下では駄目だったようだ。
「ううううう、しずおくんはここに居てくださいね」
涙目になった帝人が部屋から飛び出していった後、静雄はそろそろっと障子を開けてこっそり廊下を伺い見た。
縁側では今、小柄な女性が仁王立ちし、歪に歪んだ日本庭園を前に、劈く悲鳴を上げている。

「お、お母さん……、お帰りなさい……♪ 旅行、楽しかった?」
「……どういうこと?……」
「……え、えへへへへへ♪……」
「誤魔化せると思ってる?」

浴衣の胸倉を引っ掴み、握り締められた拳が振り上げられる。
「やめろばばぁ!! みかろ殴るな!!」
それを見た瞬間、静雄は床を蹴って飛び出していた。

「みかろは、悪くねぇ!! 俺……、やったの俺!!」
振り向いた帝人の母親の顔は、正に般若になっていた。
「そいつ、何処のクソ餓鬼よ!!」
「お母さん、しずおくんは座敷童子様なの。それにお婆ちゃんのお客人に失礼でしょ。しずおくんに今すぐ謝罪して!!」
「そういえば、白龍婆さまは何処? さっきから姿が見えないんだけど?」
「先週で丁度1000年経ったという事で、お婆ちゃんの幼馴染だった龍がお迎えに来たの。で、二人で仲良くあの世へ旅立ったよ。お母さんとお父さんにも宜しく伝えてって♪」
「……ねぇ、何か私宛に金品残してない?……」

母親の目がマジで据わっている。顔面も蒼白になった。
「……クレジットカード、婆さまの力を宛てにして、使用限度限界まで気持ちよく使っちゃったの……」
「ご愁傷様。リボ払いで頑張って♪ お婆ちゃん、今回の懸賞当選が、最期のプレゼントだって言ってたし♪」
帝人がばっさり切り捨てると、母親は眩暈を起こしたのか、くらりと体が傾いだ。

「……あああああ今後どうするのよもう、この家の固定資産税……、土地だけでも何百坪あると思っているのぉぉぉぉ………。税金……、唯でさえ高すぎるのにぃぃぃぃ……、お父さんのサラリーじゃ払えないぃぃぃぃ……」
それは俺でも同情する。
今日日、国の財政が悪化してるからって税金の取立てもハンパなくなり、今では民間の高利貸し会社が取り立て代行するご時世だ。
埼玉のど田舎といってもこんな広大な物件、年間どれだけ金を巻き上げられるかと思うと寒気が走る。


だが、板の間の廊下に手を付き、暫く身悶えていた母親は、ゆるゆると身を起こして起き上がった時には【にぃぃぃぃっ】と、臨也並みに嫌な満面の笑みを浮かべていて。
静雄の動物的な勘が、確かに告げる。
マジでこいつ、ヤバイ。

「そうよね。白龍婆さまってば、ちゃんと金蔓を残してくれてるじゃない♪ だって座敷童子……!! 北海道のコロボックル、靴の仕立て職人の元に現れる緑の小人とかと同じ、家に住み着けば、幸運と富と地位に権力をもたらすという幸運のラッキーお化け♪」

そのまま、にじりにじりとこっちに近寄ってくる。

「池袋のアングラ(アンダーグラウンド)なら、きっと億単位のお金になるわ。うふふふふ、今、異形のオークションとか、物凄く活発なんですもの。お父さん、檻は何処? 直に澱切陣内の所に届けるわよ♪」
(誰だよそいつは。それに何の話だよ、ちくしょぉぉぉぉぉ!!)

「お母さん、もしかしてしずおくんを売り飛ばす気なの!?」
「当たり前じゃない。来るかどうかも判らない座敷童子のラッキーを待つより、手っ取り早く且つ確実に、巨万の金銭と引き換えた方が賢いじゃない」
「ふっざけんなぁぁぁ!!」

帝人が初めて激怒したのにも驚いたが、あの鈍臭い彼女が、静雄を背に庇い、携帯を開いた母親に飛び掛るなんて。
作品名:座敷童子の静雄君 2 作家名:みかる