さよならメモリーズ
ああ やっと言えた、と安心する俺がいる一方で、ああ、言ってしまった、と恐怖する俺がいる。
時々、俺ってすっげぇ情けねぇって、自己嫌悪する。
「うん、そっか」
「は?!それだけかよ!」
気まずくて、顔を向けられなかったのに、帝人の一言で思わず瞠目して、顔をばっちり見てしまった。
帝人は、嫌そうに顔をしかめてるとかじゃなくて、むしろさっぱりしたような顔できょとんとしていた。
「え?なんで?駄目?」
「いや、ダメってーか…」
帝人にどうしてほしいのか、はっきりと言えない俺に気がついた。
返事が聞きたいと思う気持ちと、拒絶されたくないから聞きたくないと思う気持ちに挟まれて、まだどちらかに完全に決めかねる俺の情けなさったらない。
「仕方ないなあ…わかってくれるかと思ったんだけど。……僕も、正臣が好きだよ」
「…………それは、俺の好きと、同じ?それとも…」
「ん~…同じじゃない…かなあ」
「…っ!」
心がすうっと冷たくなる。世界が歪んで、うっかり泣きそうになった。
「たとえ恋人同士でも互いに同じ好きってありえないと思うんだよね、僕。そもそもが同じ人間じゃないし、思考回路が違うんだから、絶対どこか違うと思う。…って…正臣、聞いてる?」
「へ?」
唇を尖らせた帝人が視界に入って、間の抜けた声が出てしまった。
「だからさ、正臣と寸分違わず同じじゃないけど、僕も正臣と同じ意味で、正臣が好きだよって。言ってるんだけど?」
「………帝人」
「ん?なに、正ほひ…ひひゃい」
「いや、夢じゃないかと…」
「自分にやればいいだろー?!」
下から覗き込んでくる帝人の両頬を強くつねった。帝人が眉をひそめて、顔を歪めた。
手を離すと、若干涙目になった帝人が頬をさすって文句を言う。
「うりゃ!」
「ふぐっ!ひはっ、ひへえっへ!」
「仕返しだよ」
悪戯っぽく笑う帝人に愛しさが募って、ぎゅっと抱き着いた。
「…これからも、一緒にいてくれるか?」
「うん。正臣が飽きても、離さない。僕しつこいからね?」
背中に回った腕に、ひどく安心した。
この道は未来へ続く道。そんな気がした。