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龍吉@プロフご一読下さい
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青の歌

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青の歌



隙間を埋めるには、僕は弱く。
欲望や焦燥感は行方知れずに走るけど。
いつかは、あなたに届いて見せるから。

いつかは、あなたを僕の色で染めて見せるから。




青の歌




「穆春」
呼ばれて、思わず穆春は凍り付いた。勝手に緩む口元を抑えて振り返る。爽やかな笑顔が、自分の目線の少し上からこちらを見つめていた。
「李俊さん」
声が少し上ずった。李俊が、眉を上げる。
「どうした?風邪か?」
「あっ、いえ、なんでもないです」
「熱はないのか?」
李俊の大きな手のひらが、穆春の頬を包み込む。長い指先が襟足から穆春の髪を掬い上げて、後頭部まで包み込む。顔がかっと熱くなるのが分かった。
「いやっ、本当、熱とかないんで大丈夫ですっ」
「無理してないか?」
李俊の親指が下の瞼をなぞる。思わず目を瞑ると、上瞼を更になぞられた。
身を強張らせていると、反対側の頬にも手が当てられた。何をと思う間もなく、額に硬いものが触れた。今までのいつよりも気配を強く感じる。抑えられた吐息も、微かに感じる体温も。
ばくばくと鳴る鼓動を悟られないように、必死に息を殺す。しばらくすると、李俊は穆春を解放した。目を開けると、視界がぼやけている。目をこすり、目を開けると李俊が真正面から見つめてきていた。
「熱はないみたいだけど、無茶して拗らせてもしょうがないだろ。大人しく寝てろ」
「はぁ、っ」
応えようとした穆春は息を呑んだ。再び李俊の大きな手が、穆春の瞼に触れたからだ。
「瞼弱いのか」
ぱっと李俊が手を離す。恐る恐る目を開く。再び見上げた李俊は、優しい目をしていた。
「兄弟だな」
そう言って、李俊は帰って行った。穆春は、なんだか心に引っかかるものを残されてしまった気分だった。


調練も終わり食事に行こうとしたとき、兄が見当たらないことに気が付いた。兄の自室に入るが、そこにも兄の姿はない。廊下から部屋に首を突っ込んだままでいると、兄の副官が通りがかった。
「兄貴は?」
「あぁ、穆弘殿なら多分城郭ですよ。眼帯の紐が切れたとかで、先ほどでかけられましたから」
そういえば、兄の眼帯も長いこと使っていた。部屋の椅子の上に放られているのが、壊れた眼帯か。
部屋に入り、眼帯を手に取る。板を括り付けている金具の根元で、紐が千切れている。なんとなく、眼帯を目に当ててみた。
寸法の大きい板は穆春の顔には合わず、少し浮いてしまっている。それでも、眼帯を付けると少し気分が浮かれる。
部屋を見回すと、入り口近くの壁に鏡がかけられていた。いつも身だしなみをきちんとしている兄だ。出かける前には、いつも鏡で確認しているのだろう。
その鏡を見ながら、眼帯を当ててみる。何となく、兄の面影が見える。ばさばさの髪を手櫛で何とか解いて、前髪を下ろす。
もう一度鏡の中を覗き込むと、そこには兄に瓜二つな顔があった。目元や頬の輪郭は少々違うが、遠目になら兄に見える。
顔を色々に変えてみる。しかし表情を付けると兄には見えず、無表情の時が一番兄に似ていた。
兄が帰ってくる前に、眼帯を戻しておこう。
穆春は眼帯を外し、元の椅子の上に放った。その時、背後で戸の開く音がした。振り返ると、李俊が入り口に立っていた。日はすっかり傾いて、紫とも橙ともつかない感傷的な色合いの空気が部屋に満ちている。
「なんだ、帰ってたのか」
李俊は眩しそうにしながら、部屋の扉を後ろ手で閉める。
「いい眼帯は見つかったのか」
もしかして。
李俊は穆春だと気が付いていないのか。
穆春は寝台に腰掛ける。李俊はまっすぐに歩み寄ってきた。おそらく、逆光だから顔があまり見えないのだろう。無表情なら、近付かれても変装だとばれないのではないか。
李俊は近付いて、穆春の肩に手をかけた。
「穆弘」
そのまま寝台に押し倒される。唇を、李俊の唇がゆっくりと押し開ける。優しい口付けだった。そして、同時に怖くなった。
兄は、眼帯を買いに行ったと副官は言ったが、眼帯を着けないままで城郭などまで下りるだろうか。もしかしたら、梁山泊の中で買い物をしているのではないか。
梁山泊には、多くの人間が住んでいる。それは兵に限らず、兵の妻であったり老人たちであったりする。そして、そのものたちは手工芸品で銭を稼いでいるのだ。その中に、眼帯を作っているものがいるかもしれない。だとすると、兄は自分が思っているよりずっと早く帰ってくる。
全身に冷や汗が吹き出してくる。李俊の胸を押して、何とか逃げ出そうとする。しかし、李俊は穆春の腕を軽くいなし、更に優しく抱き締めてきた。李俊のその柔らかな抱擁が、穆春の腕から抵抗する力を奪っていく。李俊の肩に手をかける。全身に李俊の熱が伝播していく。吐く息が、熱い。
目を瞑った瞬間、扉が開く音がした。穆春は硬直し、李俊が跳ね起きる。
「誰?なんっ………」
「あ~疲れっ………」
兄の声と、李俊の声が重なる。そして、いたたまれないほどの静寂が部屋を支配した。
「穆、弘?」
李俊が呆然と呟く。兄は李俊を見、寝台の穆春を見、目をすっと細めた。
「春、お前はそこで待ってろ。李俊、まずはお前からだ」
兄の目は、火を吹いた。竦み上がるよりも更に早く、李俊が横向きに吹っ飛んだ。壁に李俊が叩きつけられる。それを追って兄が駆け、李俊の襟を掴んで更に殴る。五、六発殴ったところで、穆弘が手を止めた。胸ぐらを掴み上げ、片目で李俊を睨み付けている。
「事情があったなら今のうちに言っておけ。死んでからじゃ、聞かん」
李俊はぐらぐらと頭を巡らせている。脳震盪でも起こしたらしい。
「兄貴、待ってくれ。俺が」
「春。お前の話も後で聞かせてもらう。だが今はこいつだ」
穆弘はそう言って、李俊の頬に平手を打ち込んだ。
「おい、起きろ」
李俊はなんとか目を開いた。
「済まん。暗くて、良く見えなかった」
「済まんと分かっているなら、殺されても文句は無いな」
「兄貴、違うんだ」
穆春が声を上げると、穆弘は穆春を睨み付けてきた。目からはどす黒い炎が渦巻いている。その目だけで、穆春は身動きすら取れなくなる。
「李俊、お前はそこに正座して待ってろ。後で殺す」
そう言って襤褸のように李俊を放り捨てると、穆弘は穆春の髪を掴んだ。
「なんでこうなった」
「兄貴の眼帯を、付けてみたくて、付けて髪型も揃えたら、似てたから」
「だから?」
「だから……」
似てたから、李俊が間違えた?
言える訳がなかった。
穆春が黙り込むと、穆弘は深い溜息を吐いた。
「もういい。お前ら部屋から出て行け」
「兄貴」
「俺は疲れてるんだ。帰れ」
穆春を見つめた穆弘の目は、もう火を吹いておらず、ただ疲れたようにその瞳を濁らせているだけだった。
李俊と穆春は苦い沈黙の中、部屋から出た。部屋を出て、扉の前で李俊がやっと口を開いた。
「悪いな、穆春」
「いえ、事故でしたから」
「………」
李俊が何か言いたげに、穆春を見つめてくる。
「……良いんです、分かってますから」
「穆春」
「だから、事故なんです」
自分の肩を、抱き締める。李俊の肩は、その手の更に上だ。
伸び上がっても、彼の唇には届かない。
どうして、兄にも彼にも届かないこの自分と、兄を取り違えることがあるだろうか。
「気付いてたんですよね」