ある日の出来事
「……標的の首とか持ち帰られても困るんだけど」
「しねぇよ!! するか、バカ!! 猫じゃねぇ!!」
ウォルターは思い切り怒鳴った。そして嘆く。
「何考えてんだよ、アンディ。そういう意味じゃねぇよ。みやげったらフツーにみやげだろ!! 食いモンとか」
「え……ってか、なんで? なんでいきなりみやげなんて……」
正面から問われて困る。なんだか元気がなさそうだったから、が答えだが、そう正直に答えるのも。
「別に、理由なんかねぇけど、たまにはいいだろ。そういうのも」
「いらない。……っていうか、帰ってくる頃、ボクは出てると思うけど」
「それもそうだな」
顔をうつむけて『ふう』と息を吐く。それはその通りだ。滅多に休みが合わない。帰ってきたときにいると思うのは都合が良すぎる考えだろう。食べ物なんかNGだし、飾る物なんか買ってきても会えなきゃしょうがない。
まあ、みやげ物なんてほんの思いつき程度だったのだけれど。それでアンディの顔色が晴れただけでよしとしよう。
「そんじゃ、俺はお仕事に行ってきますか」
皮肉げに笑んで、棺を担ぎ直す。
「うん」
何かぼんやりと突っ立っているアンディを見て、ふと『そういえばコイツまた迷子だっけ』と思い出す。
「アンディ、おまえは……」
どこに行くつもりだったんだ、と尋ねようとしたその時。
遠くからアンディの名を呼ぶ声が聞こえ、アンディの肩がビクリとはずんだ。
『あれ?』とウォルターはあいまいな笑みを浮かべて、アンディを見下ろす。
あれは、あの呼び声は、絶対にアンディを捜す声だ。たぶん、声からして、モニカ秘書官。
顔を強張らせたアンディは、固い声でぎこちなく言った。
「ウォルター、やっぱりおみやげに鍵をお願い。それも誰も開けられないような、どこにでも取りつけられる、頑丈なものを」
ダッと背を向けて走り出そうとする肩をつかまえて、ウォルターはアンディをぐいっと引き寄せた。
角を曲がってモニカが現れる。
「ウォルター、よかった!! そのままつかまえていてください!!」
暴れるアンディの肩にあごを乗せて、棺ごとのしかかり、その場にとどめる。
「アーンディ。鍵が必要な理由とか話さない?」
「いいから離せ!!」
「そういうわけにいかねぇだろ」
顔を覗きこんで尋ねる。
「医務室行くの?」
「行かないよ!!」
ぶんぶんと首を振り、ウォルターを払いのけようとじたばたとする。これは医務室に行くんだ。
いったん消えたモニカが、男手を連れて戻ってきた。かわいそうだとは思うが、黙って引き渡す。そして引きずられていくのを見送る。モニカには笑顔で『ありがとうございました!!』と言われた。
「さて」
棺を担ぎ直し、ウォルターは出口へ向かう。みやげの件は考えておこう。そんな鍵、勝手に取り付けるわけにはいかないし。何かもっと、お手軽な物で妥協してもらおう。鍵型のアクセサリーとか、そんな物で。
(おしまい)