ぐらにる 流れ 茨の城
・・・・・ああ、だから、いいのかもしれないな。あんただけだ。俺に、そんな台詞を吐かせられるのは・・・・・・
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一夜の相手に呟くのとは違う。本気で言える相手は、彼だけだろう。そして、その相手を葬れば、誰もそれを知ることはないのだ。
「一日に一度くらいなら。」
「ありがとう、姫。最高の贈り物だ。きみから貰える贈り物は最高だ。」
物質は、いつか失くしてしまう。だから、記憶がいい。きみの唇が奏でる言葉なら、私は記憶しておける。
そうグラハムは微笑んで、俺にキスをする。
「・・・・愛してる、グラハム。今日は融けるように眠りたい。」
「承知した。姫は激しいのを、ご所望だな? だが、今夜、ケーキとシャンパンで祝う体力だけは遺して置いて欲しい。」
「ああ、お祝いしよう。ローソクはあるのか? せっかくだから吹き消せよ。」
「ローソク? それは用意していなかったな。」
「じゃあ、俺が年の数だけキスしてやる。」
「それは実にいい提案だ。少しサバを読むとしよう。」
「今、暴露したら意味がねぇーだろ? あんた、どっか抜けてる。」
ふたりして笑い合って抱き締めあう。体温を感じる行為は世界共通だ。啄ばむキスを深くして、互いの背中を撫でる。それほど切羽詰っていないから、柔らかく触れ合うように互いに愛撫する。
「愛している、姫。きみだけだ。」
「俺も、あんただけだ。」
なかなか言葉を紡がない姫は、いつも、こんなふうにはぐらかす。だが、いいのだ。また明日、素面の姫は約束を守るはずだからだ。
作品名:ぐらにる 流れ 茨の城 作家名:篠義