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Prayer -祈り-

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1章 見晴台にて




高い見晴台がある塔の天辺に登って、手すりによりかかった。
硬い城壁の石はゴツゴツして手触りが悪い。
そのまま顎をそこに乗せたら痛くなりそうだったので、腕を置いて上に顔を載せる。

──ぼんやりと遠くの景色を見た。

背が高い暴れ柳が大きく枝を広げている。
その後ろは広大に広がる禁じられた森だ。
暗い色の木々がうねうねと波打つように続いているのは、ひどく不気味に写る。
自分でも数度しか入ったことがない危険な場所だ。
そのまた向こうは、ほとんど地平線に近い部分で、ぼんやりとした牧草地帯が広がっていた。
白い点々としたものは多分羊だろう。
代わり映えのしない景色だった。

──つまらない毎日。つまらない日々。

片方のつま先をぶらぶらさせて、前の石壁をコンコンと蹴る。
だらだらとした仕草で足を振ったり、からだごとグニャリと手すりによりかかったりした。
そのままの姿勢で、たいして面白くもない素振りで、ポケットから一枚の紙を取り出す。

グシャリと丸められた用紙を開くと、細かい数字の羅列と棒グラフが書かれてあった。
ハリーは醒めた表情のままそれをじっと見ている。
ここは地上より風が強くて、その薄っぺらな紙がパタパタとたなびいて、今にも彼の手から離れて飛んでいきそうだ。
ふうーっとため息をひとつつくと、後ろでクスリという笑い声が上がった。

雨に濡れると滑りやすいのでわざと荒く削った床を踏みしめて、胸を反らし気味に威張った素振りのままドラコが近寄ってくる。
傍若無人な態度で断りを入れることもなく、背後から用紙を抜き取ると、それを一通り眺めまたクスリと嗤った。

「おやおや、こいつはひどい成績だな、ハリー・ポッターとあろう者が。きっと僕の受けたテストと内容が異なっていたに違いない。100点満点ではなく、50点満点のテストだったみたいだな。この成績表のなかで占い学の39点が最高得点じゃないか。いや、全くすごい成績だな!」
相手の声は意地の悪い響きに満ちていて、ハリーはプイと横を向いた。
「そんな回りくどい言い方をしなくても、全部赤点だよ。悪かったな!」
フンと鼻を鳴らす。

「ついでに占い学だってマグレだ。適当に想像して書いたら、運よく先生のイマジネーションに響いたみたいで、おまけで点をくれたんだ」
「じゃあ他の教科はどうしたんだ?」
「全部欠点で、追試決定だ」
ガシガシとハリーは頭を掻いて、またぺたりと上体を手すりに預けた。
つまらなそうに、また石の壁を蹴る。

「……追試受からなかったら、落第するぞ」
「ああ、そうみたいだね。よく分からないけどさ……」
まるで他人事のような感じで答えた。

ドラコの顔にシワが寄る。
「お前、落第なんかしたらまた一年同じことを習うんだぞ。しかも自分の周りはみんな年下で、そんな奴らに囲まれて勉強をするなんて、ものすごく格好が悪いぞ」
「だって、しょうがないだろ。自分が望んでもいないのに、いつもトラブルに巻き込まれているんだからな。見たこともない石を探し出せとか、あるのかさえ分からない部屋を見つけなきゃならないし、毎年信じられないくらい事件に巻き込まれて、挙句の果てにデイメンターに襲われたんだよ。体調は最悪だし、だからのんびり勉強なんかする時間などないし──」
「そんなのただの言い訳だ」
ドラコは吐き捨てるように言い放つと、その紙をハリーの隣まで回りこんで、ハリーの成績表を広げて確認させようとする。
ハリーは顔をしかめて視線を外した。

「英雄が聞いてあきれる!」
「誰も望んでいない、そんなものは!」
ドラコは半身を乗り出して、その用紙を相手の目前にグリグリと押し付けた。

「もしこれが僕ならば、絶対に父上は許さないと思う。ほとんど欠点なんて酷すぎだ。休暇中、毎日家庭教師を貼り付けて、徹底的に勉強させるだろう」
「──ふん、君のご自慢の父上なら、そうするだろうね。でも僕には全く当てはまらないし、関係ない話だ」
ハリーの機嫌が一層悪くなる。
「勉強がいったい何になるんだ」
子どもっぽい傲慢な呟きだ。

ドラコはカッとしてそのだらしない足を横から蹴り上げた。
力を抜いたまま、だらけた姿勢で手すりに寄りかかっていたハリーは、ひとたまりもなく簡単に地面に転がってしまう。
腰をしたたか強打して、その床下の硬さに痛さに小さくうめいた。
「ああ……、つっ……」
「勉強する気もないお前が、努力もせずに、そういうことを言う資格などない!」
「君には関係ない話だろ。そんな紙なんかどうでもいい。何なら、それを捨ててくれてもいいよ。実際マルフォイが声をかけなくても、風に飛ばして捨てるつもりだったんだから」

ドラコはその言葉にとうとう堪忍袋の尾が切れてしまったらしい。
黒くピカピカに磨き上げられた靴で、ハリーの胴を加減なく蹴った。
鈍い音を立てて、相手のわき腹にきれいに決まる。
ハリーはグェッとあまり気分のよくないうめき声を上げて、からだを丸めた。
一瞬で息が詰まり、目の前に星が散る。
苦痛に身をよじりながら、なぜ相手から一方的で理不尽な扱いを受けなければならないのかが分からない。
何も成績がよくても悪くても、ドラコには関係のない話のはずだ。それなのに激昂し、あまつさえ足蹴りまでされてしまった。

(──分からない)
相手の気持ちが全く分からない。
ただハリーにとって成績のよしあしなど、取るに足らないどうでもいいことなのに──


作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure