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Prayer -祈り-

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3.探し物



校庭の裏側の林の奥まった杉の木陰の中を抜けると、ちょっとした広い場所があり、枝を掻き分けそこへと足を運ぶ。

「─―ねえ」
呼びかけると、下を向き垣根に腕を突っ込んで中を探っていたドラコは、ビクンと背中を振るわせた。
「なっ!なんだ、驚かすなよ!!」
夢中になっていたのだろう、ハリーが近づいていたことに全く気付かなかったらしい。
ひどく驚いた顔で慌てて振り返った。
目を見開いた表情のまま相手を見詰める。

「これ、忘れ物」
手に持っていたものを差し出し、地面へと置いた。
「ああ、本当だ。今まで気付かなかった……」
言いながら近づいて、ソックスに付いたドロを手で軽く落とすと、そのまま足を突っ込み、少し動いてそれを馴染ませる。
すぐに探していた場所に戻ろうとする相手を見て、ハリーは思わず声をかけた。

「――えっ?それでいいの?」
「何がだ?」
意味が分からない顔で振り向くドラコに、不思議そうに問いかける。

「だって、今まで靴下のままだったんだろ?汚れたからソックスを履き替えないの?靴の中にもドロがつくよ」
「はぁ?別にいいだろ、これぐらい。いつものことだ」
「君、潔癖症じゃないの?純血だとか、何だとか、難しいこと言っていたし」
「……別に僕は潔癖症じゃないし、それと自分の出生とは関係ないと思うが?」
ますます意味が分からないという表情でドラコは答えた。

「だっていつもシワひとつない制服を着ているし、靴はピカピカだし、ネクタイだってどんなに暑くても気崩したりしてないじゃないか」
「あれは毎朝用意されたものを着ているだけだ。ネクタイを緩めないのはそういう風に躾けられていたから、そうしているだけだ。別に潔癖症なものか」
「汚れた靴下のままでも平気なの?」
「──履くのに支障がなければ、別に問題じゃないだろ」

「へぇ……」
ハリーが少し驚いた顔でうなっている姿の意味がさっぱり分からず、ドラコは肩をすくめる。
そしてすぐに気を取り直すと、逆に相手に自分から声をかけた。
「そんな訳分からないことを言うより、探すのを手伝えよ。どこへ落ちたか分からないんだからな。一応ここらへんに落ちたと思うから、地面を探したけどないから、垣根の間かもしれないと思って探っているんだ。だから、それを手伝え」

命令されることは少しむかついたけれど、あのペンダントを落としたのは自分だという負い目はあるから、ハリーは大人しく手近な低木の枝を掻き分けて中を探り始める。
ドラコは別の場所で同じように垣根に腕を突っ込んだりした。
無言で銘々がそれを探し始める。

だけど、1時間がたっても見つかる気配がない。
遠くで夕食の時間を告げる鐘が響いてきた。
空も茜色に染まってきている。
「もう今日はムリだな」
ため息混じりにドラコは呟くと、屈んでいたひざを伸ばして立ち上がる。
「夕食の時間だ」
ハリーに声をかけると、「ああ、分かった」と同じように立ち上がった。

ふたりが目指す先は、夕食の用意がしてある大広間なので、自然と同じ方向へと歩き始める。
連れ立って肩を並べて歩くことははじめてなので、なんだか違和感があるけれど、無理して駆け出すような子どもじみた行為も恥ずかしいような気がして、なんとなく並んで歩くことになってしまった。

「どこに落ちたんだろ?」
ポツリとドラコが呟く。

「あの場所で間違いないの?」
「ああ。見晴台から見たときは、あの場所で光っているのが見えたんだから間違いない。結構探したのに……」
「また明日は休みなんだし、じっくり探してみたら?」
「そうするつもりだ。──しかし、いつもあるものがないと、なんだか居心地が悪いな……」
呟いてドラコは自分の首筋から胸元に手を滑らした。
見ると少し前の諍いで飛んでしまったボタンのせいで、相手の襟がだらしなく開いている。

ドラコの日に焼けていない色の白さばかりが目に付いて、なんとなく見てはいけないような気分になり、慌ててハリーは視線を外した。
「ここらあたりがスースーして、軽くて仕方がない」
「ずっとかけていたの?」
「ああ、この学園に入る少し前から、ずっとだ」
「自分の両親からのプレゼント?」
「いや、別にそんなんじゃないけど……」

「だったら、誰?」と聞きそうになる前に、大広間についてしまい、ドラコはあっさりとハリーの隣を離れてスリザリンのテーブルへ行ってしまったので、会話はそこまでなってしまった。


結局、聞きそびれた答えは、いったい誰だったのだろう?


作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure