Prayer -祈り-
ふたりが同時に叫ぶ目の前で十字架が下へと落ちていき、それはすぐ小さくなり視界から消えてしまった。
ドラコは真っ青な顔のままハリーを突き飛ばすと、落下場所を確認するように手すりから身を乗り出して下を見て頷き、すぐに踵を返す。
そしてそのまま階下へと走り去ったのだった。
必死の形相で走り去った相手に、ハリーは驚いた顔のまま目をしばたかせた。
相手の必死さに意味が分からないという表情で。
ひとり取り残されて、押されてまた床に尻餅をついたままの格好で、呆けたように出ていったドアを見詰める。
「……いったい、なんだよ、アイツ。大げさだな」
やがて気を取り直すと、ぶつぶつと呟きつつ立ち上がり、床に転んだ拍子に付いてしまったズボンのほこりを叩いて振り落とす。
制服は黒色なので白い汚れはよく目立つから、コレをしないと「だらしない」とハーマイオニーが怒るからだ。
少し離れたところに自分のローブが落ちていて、それを拾い上げ手に取ると、見事にドラコに蹴られて付けられた足あとが数箇所あり、顔をしかめた。
蹴られた痛さを思い出して、むっつりとした表情のまま襟元を持ち、バサバサとそれも払う。
(まったく!)
忌々しそうに舌打ちして、ドロとほこりを落とすと、ローブを羽織った。
ケチも付き、夕食の時間も近いこともあり、この場所から去ろうとして、見ることなしに落し物などしてないかと、なんとなく目を走らせれば、革靴が壁の隅に転がっているのが目に入った。
もちろん持ち主は違いない。
脱兎のごとく、足早に走り去ったからだ。
無視して階段へ向おうとしてドアまで歩き、また踵を返して引き返すと、その靴を手に取る。
眉を寄せて少しだけ悩んだ顔になったが、ひとつため息をつくと、それを拾い上げると再び出口へと歩いていったのだった。
作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure