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Prayer -祈り-

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昨日の場所は確かこちらあたりだったと、ガサガサと枝を払って進んでいくと、見慣れた姿がそこにあって、やっと走るのを止めて立ち止まる。
あのドラコ・マルフォイが地面に四つんばいになって、懸命に生垣に腕を突っ込んでいた。
プライドの高さから誰にも、──例え先生にすら頭半分の会釈しかしないともっぱらの噂の相手が、這い蹲っている。
しかも、ラフな格好というより、本格的に探そうと心に決めたような、スポーツウエアもどきを身に付けていた。
ありえない格好で、ありえないポーズの相手を見て面食らったハリーは思わず、
「ねぇ、お腹空かない?」
などと、スットボケタことを言ってしまった。

その言葉にビクリと派手に肩を震わせた相手は、驚いた拍子に生垣に半分からだを突っ込みながら振り返った。
「いっ……、いったい何だ、貴様はっ!!僕を驚かすのが趣味なのか?!」
そう怒鳴ってきたけど、相手もかなり声が裏返っていて、お互いに思わず笑いだしてしまった。

ドラコは相変わらず木の中に手を突っ込んだままで、ハリーはずっと走ってきたから息が荒く上がっていた。
「──ええっと……、もうすぐ10時だろ。お腹空いたんじゃないかなぁと思って、コレを持ってきたんだ」
手に持っていたナプキンをそのまま差し出す。
ドラコは無言のままで、その差し出された包みとハリーを交互に見詰め続けていて、何も喋らなかった。
明るい日差しの中ではほとんど透明に近いブルーの瞳を眇めて、じっと見詰めたまま一言も話さない相手に、ハリーは『失敗したかな』と後悔し始める。

きれいなセロファンでラッピングしたり、見栄えよく籠に盛り付けたりしていないし、そのまま紙で包んだだけだ。
あのプライドが高そうな相手が、こんな胡散臭い物など受け取らないことぐらい、たやすく想像がつく。
(もう少し見栄えがよくすればよかったかな……)
気が利かない自分が少し情けなかった。

「……ドビーが……、作ってくれたんだ。焼きたてだし、味はいいと思うだけど──」
自分でも何を喋っているのか分からないほど尻すぼみな口調で、口の中でごにょごにょと小さく呟く。
それでも相手は動かない。
こちらをじっと見詰めたまま何も喋らない相手に、たまらず視線を外し、ハリーは隣の小さな白い花がいっぱい付いている低木を見た。

「……別に約束していた訳でもないし、君が僕のことを気に食わないことは承知しているけどさ。やはり、ペンダントを無くしたのは僕が原因だから──、だからここへ来たんだけど──」
ハリーが覇気のない声で、言い訳がましいことを独り言のように呟いていると、不意にドラコが声をかけてきた。
「包みの中身は何だ?」
自分の話とは全く違う、唐突な質問に、目を白黒させながらハリーは答える。
「──えっ?マフィンだけど」
「味はなんだ?」
「プレーン」
「ああ、それならいい。僕はセサミだけは苦手だからな」
などと言いながらおもむろに立ち上がると、近寄ってきてハリーの手の中の物を受け取った。

下草の上にどっかりと座り込み、手を自分のシャツのわき腹あたりにこすり付けて、付いたドロとほこりを落とすと、躊躇なく紙を開きそれをかぶりつく。
口を大きく動かし、3口ぐらいでもうその半分を食べてしまった。
その食べっぷりを珍しそうに見詰めながら、ハリーは隣に座り込み質問を続けた。
「セサミは好きじゃないの?」
「ああ。あのゴマが口の中でつぶつぶする感じがイヤなんだ」
「みんなはあの食感が香ばしいって言うけどね」
「人の好みは千差万別だろ?」
口の中にいっぱい詰め込んだままモグモグさせつつ、マフィンの欠片をこぼしながら喋る姿に、なんだか笑ってしまいそうになる。

ドラコはまた大口を開けてマフィンにかぶりつこうとして、ふと動きを止めて相手に視線を投げかけた。
「そういえば、君の食べ物はどこにあるんだ?」
「えっ?ああ……、僕はいいんだ。ついさっき、寝坊したから朝食を食べたばかりだから、お腹はいっぱいなんだ」
「じゃあ、遠慮なく」
ドラコは安心したように、それを食べ始める。
上機嫌な顔で口いっぱいに頬張っている姿を見詰めながら、ふと思ったことがある。

(もし、それ1個しかないし、自分もお腹が空いていると答えたら、マルフォイはどうするつもりだったんだろ?あの食べかけの半分を僕に差し出すつもりだったのかな?)
なとど変なことを考えてしまい、半分かじったマフィンを堂々と「ほら食え!」と差し出すドラコの姿を想像して、たまらず噴出して笑い声を出してしまった。
ドラコは『なにがどうしたんだ?』という顔でハリーを見上げる。
「別に……なんでもない」と息を詰まらせながら、首を横に振った。

見上げると今日は本当にいい天気でいい風が吹いていて、ドラコはらしくないマグル界で言うならジャージみたいな変な上下の服を着ているし、自分が差し出した食べ物を食べている。
しかもボロボロそれを食べこぼしているのに、気にせずパクついてたりしていた。

変な休日だと、ハリーは思った。
自分の隣にあのドラコ・マルフォイが座っているなんて。

そしてなにより──なにより、ドラコは自分に向かってケンカ腰ではなかった。
ちゃんと普通のように話してくれるし、答えてもくれる。
ただそれだけなのに、ものすごく気分がよかった。


どうしてか分からないけど、笑ってしまうくらい気分がよかったんだ。


作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure