Prayer -祈り-
5.予想外
「さぁーてと……」
と呟いて、パクついていた食べ物を食べ終わると、休憩も終わりだという感じでドラコは立ち上がった。
「とりあえず、どこまで探したの?」
「ああ、このあたりは全部、地面も生垣も丁寧に探したけど見つからなかった」
指を指して、どの辺りまで探したのかをハリーに指し示す。
「そんなにかなり広く探しているのに見つからないのか……」
「そうなんだ」
ふたりして俯き、しばらく考え込んだ。
「だったら、木に引っかかっているかもしれないよね」
「やはりそう思うのか……。面倒だな」
ドラコの顔が曇る。
ここにある木はどれも古く、枝が大きく張り出しているものばかりで、しかも枝と枝が入り組んでいて、とてもややこしそうだ。
「でもほら、箒があるじゃないか。あれに乗って上から探せば見つかると思うよ。きっと、大丈夫だ。絶対、見つかるって!」
ハリーは自分がそれを無くしてしまった負い目もあり、何度も「大丈夫だ」という言葉を使って相手を励ました。
「君ひとりじゃなくて、僕も手伝うから」
畳み掛けるように言うと、ドラコはその言葉に反応して、顔を上げてハリーを見上げる。
光が当たると空の青さが写りこんで薄水色になる特徴的な瞳のまま、じっとハリーを見た。
そしてそのまま相手は何も言わず、じっと黙り込み無言のまま時間が過ぎていく。
ずっと動かない相手にハリーはそわそわとした気持ちになり、焦って落ち着きを無くしてしまいそうだ。
そうやって見詰めるのはドラコの癖かもしれないが、表情を消した顔で見られるのはなんだかいたたまれない。
自分がとんでもない失敗を仕出かしてしまったのだろうかと、不安になってしまう。
仲がいい訳でもなく、別に親しくもない自分の申し出は厚かましすぎるのかもしれない。
「あっ……、あのさ、やっぱり──」
お節介が過ぎたと後悔しながら、「手伝う」という言葉を引っ込めようとしたとき、やっとドラコは首をコクリと縦に動かし、軽く頷いた。
「ああ、そうしてくれると助かる」
と口元をちょっと緩めて、ハリーに向って微かに笑いかけてきた。
怒った顔などいつも見てきた相手だし、意地の悪い表情はいつものことで、キツくて見下すような視線も、挑戦的な態度も、見慣れたものだ。
あまりにいつも不機嫌な顔ばかりしていたので、なぜかドラコは笑うことがないとハリーは思っていたから、思いがけない相手の笑みにちょっと面食らった表情を浮かべたまま、慌ててハリーは頷き視線を外した。
「じゃあ、僕はさっそく自分の箒を寮から取ってくるよ」
それだけの言葉を残してハリーはクルリと踵を返すと急いで走り出した。
森を早足で駆け抜けながら、低い低木をいくつも飛び越えつつ呟く。
「びっくりした!まさか笑うなんて」
何度となく同じ言葉が口から出してしまう。
信じられなかった。
スネイプに向って機嫌を取るような媚びた笑みは見たことがあったし、クィディッチの試合でスリザリンが勝ったときの尊大な笑みなら何度でも見てきた。
打算的で計算された上や、自分の地位を誇れる場面でしか、笑わない相手だと思っていたのに、その相手が自然な動きで自分に笑いかけてきたのだ。
「信じられない」
またハリーは呟く。
自分は勝手な思い込みでしか、ちっぽけな価値観でしか相手を見ていなかったのかもしれない。
あまりいい思い出がない生い立ちのせいか、一旦相容れない相手だと思うと、とことんその人物の悪い部分しか見ないのは、自分の悪い癖のひとつだ。
そこにあったかもしれないものを、ちゃんと見ないのは、本当に悪い癖なんだ。
むかしから……。
目に見えるものだけが正しくて、この世のすべてではないはずなのに──。
作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure