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こらぼでほすと 拉致1

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寺の朝食は、基本和食で、炊きたてごはん、味噌汁、出し巻き卵、納豆、おひたし、焼き魚というのが定番メニューだ。これに弁当製作の残り物とか、前夜の残り物なんかがついている。
「いっただきまぁーす。」
 寺のおサルさんが、ごくっと味噌汁を飲んで、ぐっと詰まる。そして、坊主も同様に一口飲んで固まった。
「・・あ・・すいません。」
 ここんところの朝の様子に、寺の女房は謝る。そして、すかさず、ポットが卓袱台を行き来する。本山の上司様ご一行がお帰りになって、師走の月に突入したが、それが半場も過ぎた頃から、どんどん味噌汁の味がおかしくなっているのだ。最初は、ちょっと辛いかも? ぐらいのことだったが、薄かったり、なんだか甘かったり、濃かったり、日々、いろんな味になっている。本日は濃かった。しょっぱいのだ。
「おい。」
「おかしいなあ。ちゃんと味見してるんだけど。」
「まあ、薄めれば飲めるからいいよ。」
 他のものは、ちゃんといつも通りの味付けなのだが、どうも味噌汁限定で味がおかしい。理由は、なんとなくわかっているので、坊主もおサルさんも寺の女房を責めるようなことはしない。で、女房は、そのまんまの味噌汁に口をつけて、普通に飲んでいる。
「ああ、ダメダメッッ、ママ。薄めないと。」
「おまえ、こんなもん飲んでたら高血圧で死ぬぞっっ。」
 慌てて、亭主が女房の味噌汁椀を取り上げて、サルに渡す。お湯で増して、また返している。これが、ここんところの寺の朝の日常風景だ。
 そろそろクリスマスウィークに突入するのだが、女房の連れ子の桃色子猫の降下連絡が入らない。もしかしたら降りられないかもしれない、とは言われていたものの、やはり、寺の女房は、それで気落ちしているというか、桃色子猫の心配をしているとかで、どこか回線が混線している。それで、味噌汁の味が安定していないなんていう事態を引き起こしていた。降りてこられないということは、組織の再始動まで秒読み段階だということだから、寺の女房も気が気でないらしい。





 なんとかクリスマスウィークに突入する前に、ハイネはラボへ戻って来た。あっちこっちの諜報活動をしていたので、疲労困憊状態だ。データをエールストライクから取り出して、虎に手渡すと、ぶへーっと、管制室でヤンキー座りになった。
「厳しかった。」
「ご苦労。ハイネ、年末年始なんだがな。」
「へーへーラボの留守番だろ? 」
「いや、今年は、全員集合して年末年始で、組織のほうのシステムセキュリティーを強化する作業をやることになった。」
「はあ? 」
 組織と一部掌握したヴェーダは繋がったのだが、ヴェーダの生体端末が、こっそりと組織のデータをチェックしていることが判明した。もちろん、組織にもセキュリティーシステムはあるのだが、そんなものは素通りだ。あまり駄々漏れで情報が流れるのは危険なので、『吉祥富貴』側から、組織には内緒で組織のサーバーの周囲にセキュリティーシステムを構築して配置することになった。組織にも内密に、そして生体端末側にも知られずに、それらを配置するので、コーディネーター総出で、その作業をする。なんせ、組織側のサーバーやら一部掌握しているヴェーダの作業領域全域をカバーするものだから、キラとアスランだけでは配置する作業に無理がある。年末年始なら、纏まった休みだし、世界も騒がしくは無いだろうから、ここで、その作業をする予定になったのだ、と、虎が説明をする。
「そういうことだから、年末年始は、そっちの作業に駆り出される。」
「オッケー。システム自体は? 」
「キラが作っている。そろそろ完成するそうだ。」
 セキュリティーシステムは、キラとアスランで一ヶ月ほどかけて構築した。ちょうど歌姫様が年末の怒涛のスケジュール前の休暇で、別荘に滞在しているので、キラたちも、こちらで最終の作業をしているところだ。
「なんで組織には通達しないんだよ? 虎さん。そういうことなら、紫子猫も参加させりゃあ、いいだろ? 」
「さすがに、そこまで肩入れしているのは知られるとマズイんでな。こっちが勝手にやるという体にしとくんだそうだ。」
 まあ、『吉祥富貴』は戦争行為に参加しない、と、決めているので、そこまで肩入れすると、そこに抵触する。だから、こっちが勝手にやってます、ということで援護するらしい。それに、組織側とこちらで構築するセキュリティーシステムを連動させるとなると、キラが、あちらに出向かないとならないなんてことになるので、そこいらもできないからのことだ。
「はいはい、了解。二、三日は休み貰うぞ? さすがに疲れた。」
「ああ、ゆっくりしてくれ。クリスマスウィークに突入したら、店のほうの出勤は頼む。」
 ちょうど、クリスマスウィークまで残り四日ある。それまでは休んでもよい、と、虎も許可したので、ハイネは寺へ行くことにした。あそこなら、とりあえず世話はしてもらえるので、身体を休めるには最適だからだ。



 よろよろと寺の山門を潜ると、本堂の前をパタパタと布団を運んでいる寺の女房が目に入った。虎が先に連絡しておいてくれたらしい。

・・・・あーこれで、三食昼寝付きの優雅な生活だ。・・・・

 さすがに一ヶ月でアフリカから中東への遠征は忙しかった。ただの敵情視察なら、それほどの強行軍ではないのだが、軌道エレベーター周辺の防衛状態だとか、中東のカタロンの演習とか、いろいろと調べることが盛りだくさんにオーダーされていたから、ハイネも、ひとつずつをクリアーするのに必死で、寝る暇とかサボる暇もなかった。いくらコーディネーターとはいえ、それだけ作業が過密スケジュールになってくると、身体が疲労してくる。

「たっでぇーまー。」
 家のほうへ入って、居間に転がる。坊主は留守だった。坊主の上司様ご一行も無事にお帰りになったという報告は受けていた。ちゃんと、寺の女房は、上司様御一行のお眼鏡には適ったそうで、女房認定も出たらしい。ハイネにしてみれば、そりゃ認定するだろう、と、思う。どう見たって、寺の夫夫は、夫夫らしい仲睦まじさたからだ。
「ハイネ? おいおい、こんなところで倒れてないで疲れてんなら脇部屋で寝てくれ。」
 脇部屋から戻って来たニールの声がする。目を開けると、そこには孔雀色の瞳だ。
「おー麗しのママニャン。愛してるぜ? 」
「・・・・壊れてるな? 腹は? 」
「減ってると思うんだが、もう感じない。」
「眠いのか? 」
「眠いんだろーなあ。」
「起きられるか? 」
「ああ。」
「風呂沸かしたから入って来られそうなら入れ。」
「・・・やっぱ、おまえ、いい女房だ。是非、俺と駆け落ちしてくれ。」
「バカッッ。」
 もう、これだけで気分がすっと楽になる。ここだけは、『吉祥富貴』でも日常だ。ここに居る間は、日常の空間に居られる有り難い場所で、ハイネとしても自分のマンションに帰るよりも、ここに来る。そうすれば、仕事が一段落したと気が抜けるからだ。かかかか・・・と笑いつつ、ハイネも起き上がる。
「虎さんから連絡が入ったか?」
作品名:こらぼでほすと 拉致1 作家名:篠義