こらぼでほすと 拉致1
「ああ、ボロ雑巾が辿り着くだろうから洗って再生してくれってさ。・・・お疲れさん。」
「ボロ雑巾? ひでぇーな。せっせと働いてきたってーのに、その扱いかよ。」
「まあ、そう言うなって。虎さん、ちゃんと休みくれたんだろ? しばらく、ゆっくり寝暮らしてればいい。」
とりあえず、風呂に入れ、と、強制的に風呂に連行された。着替えのパジャマやら半纏なんかも、脱衣所に用意してくれているところが、さすが、だと、ハイネも思う。
ゆっくりと風呂に浸かり、出てくれば冷えたビールと軽いものが卓袱台にセッティングされているのを眺めると、ほんと、趣旨変えして女房に欲しい、と、切実に願ってしまいそうになる。
「刹那とは、あっちで接触しなかったのか? 」
「してない。どっちも隠密行動だから緊急でないなら、わざわざ危険を犯して接触することはない。」
刹那が後からアフリカ大陸へ出た、という報告は受けていたが、接触の指示は出なかった。刹那自身が、どこと行き先は明確にしていないので、ハイネもわざわざコンタクトを取ろうとは思わなかった。
「どうせ春には戻るだろ? 便りが無いのは元気な証拠だ。」
「わかってるよ。・・・メシは? 」
「それは一眠りしてからにする。三蔵さんはパチンコか? 」
「いや、檀家さんの月命日のお勤め。」
「三蔵さんとこの上司さんたちも無事に引き取ったみたいだな? 」
「まあなあ。三蔵さんが、けちょんけちょんに言い負かされてるから楽しかったぜ? 」
「あははは・・・さすがに上司には逆らえないみたいだな。」
ぐびぐびとビールを飲み干して、適当にツマミも口にすると、瞼が勝手に落ちてくる。風呂で目は覚めていたが、アルコールで疲れが思い出された。
「悪りぃ、寝る。」
「ああ、脇部屋に布団敷いてあるから。」
「放置しといてくれ。」
「わかってる。」
「寂しかったら、夜這いは歓迎だぜ? 」
「・・・・・おまえに夜這いかけるんなら、先に三蔵さんにかけるよ。一応、俺、あの人の女房だからな。」
「律儀だなあ。・・・じゃお休みー。」
軽口の応酬をして立ち上がる。一番奥の脇部屋は、ちゃんと部屋も温められていた。すっかり冬の季節だから、上下に毛布も挟んである。至れり尽くせりの世話で、ハイネも布団に入って、瞬く間に意識を落とした。
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シンとレイは、トダカ家に来ていた。いろいろと考えて、ふたりして出した結論をトダカに伝えて許可を貰うためだ。最初は、シンだけが、そう考えて、レイに告げたのだが、レイも同じことは考えていた。どう考えても時間が足りないので、優先すべきことを優先させようとしたら、そういうことになった、と、レイも言った。大学とアカデミーのほうにも確認して、それが可能だと判明したから、手続きすることにしたのだが、それには保護者と後見人の承認が必要で、それに、シンは、まずトダカに話を通すつもりだったから、まずはトダカさん、ということになった。ちなみに、シンの後見人は、どっかの某議長様で、保護者がトダカだ。そして、レイは、その逆なので、どちらもお願いするには、トダカを説得しなければならない。某議長様のほうは、説明すれば承認ぐらい、すぐにしてくれることは分かっていた。
「改まって、どうしたんだ? 」
話がある、と、シンとレイが真面目な顔で言うので、トダカも真面目に聞くつもりで尋ねた。
「俺とレイの進学のことなんだけど・・・・アカデミーへの入学許可は降りた。」
「ああ、おめでとう。何かお祝いしなくちゃならないな。」
ここまで黙っていたのは、まずアカデミーへの入学許可が出てからでないと意味が無かったからだ。
「それで・・・そのアカデミーの入学なんだけど、一年休学してからにしようと思うんだ。その・・・入学金と最初の授業料だけ払い込めば、休学できるんで・・・半年分の授業料は無駄になっちまうんだけど、そうしたいと思ってる。」
「トダカさん、これから組織が再始動するとなると、俺たちも救援や援護でアカデミーに通えなくなる可能性が高い。それなら、それが落ち着いてから、ゆっくりと勉強したほうがいいんじゃないかと結論しました。」
組織の再始動までカウントダウンは始まった。たぶん、来年のどこかで、それは始まるだろう。そうなると、『吉祥富貴』のMS組は、そちらの支援をすることになる。アカデミーの一年目なんて、カリキュラムも多いし、そうそう休めない。中途半端になるくらいなら、休学して、そちらに専念して終ってから、きちんと勉強したい、と、レイは説明した。
「休学が一年になるか二年になるかはわかんないけどさ。俺らの力なんて、キラさんにしたら微々たるもんかもしんないけど、俺もレイも手伝いたいと思ってるんだ。片手間じゃなくて、本格的に。」
前回は、歌姫様の護衛陣とザフトレッドたちで救助したのだが、今回は、それで無事だとは思えない。MSの実力の差が拮抗しているから、救出にも危険が伴う。キラは、それでもやるだろうが、できる限り、その援護はしたい。キラに何かあったら、『吉祥富貴』は成り立たない。それは、シンとレイも望むものではない。『吉祥富貴』の求めるものは、シンとレイも望むものだ。その中心である歌姫が、いずれプラントの指導者となるにも、確固とした背景は必要になる。それらを考えると、ここで、下手にキラや歌姫に怪我をされるようなことは避けたいし、刹那たちを無事に救助もしたい。やがて、刹那たちの組織も、大々的な活動をしなくなって、こちら側につくだろう。そこまでのフォローは、シンとレイとしても参加したい。『吉祥富貴』がなければ、プラントも先々、立ち行かなくなるから、そこまで考えてのことだ。
「それで、この休学の申請には、後見人と保護者の承認が必要なんです。・・・承認していただけないでしょうか? 」
ここまでは、簡単な手伝いだけだった。キラはシンとレイの将来を考えて、本格的な参加は避けていたからだ。
ふたりして、考えたことを説明したら、トダカは難しい顔をして黙っている。やはり、学生は続けるべきだ、という意見なのだろうか、と、ふたりも黙った。
「大学の卒業資格は取れたのかい? シン、レイ。」
ゆっくりとトダカが視線を向ける。
「ああ、それも取れた。」
「俺も取れています。」
最終的に残っているゼミとゼミ関連の授業の単位も、後期の試験と論文が通れば、問題なく卒業資格は降りる。よっぽどのことがない限り、そちらも問題はないと、指導教授に太鼓判は押された。論文も書き終わっているので、指導教授も内容は確認しているからだ。
「・・・・そういうことなら、私は何も言わないさ。おまえたちが決めたのだから、思うようにすればいい。ただし、終ったら、ちゃんとアカデミーも卒業すること。いいね? 」
「とうさんっっ。」
「トダカさん。」
トダカから許可を貰うのは、もっと難しいだろうと覚悟していたので、呆気なく許可が出て、シンとレイもびっくりだ。何度でも説得するつもりで、覚悟していた。
「だって、おまえたちは、もう成人しているんだ。自分で出来ると決めたのなら、私は反対しないよ。」
作品名:こらぼでほすと 拉致1 作家名:篠義