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四谷 由里加
四谷 由里加
novelistID. 31889
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貴方がいないと俺の世界は作れない

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―――懐かしい夢を見た。

己の左目が潰れるよりもまだずっと前…、


そう、あの人が健在だった頃の夢だ。










高杉家の子息としてのしがらみがあり、自由とはお世辞にもいえなかった幼き頃。
俺の誕生日を名目にうじゃうじゃ集まってきた、村や地方の有権者や親族との、反吐の出るような宴。上辺だけの付き合い。
日暮れ方の頃には、もはや俺の誕生日祝いという本来の意味が形骸化し、あの場はただ、駆け引きや交渉の場と化していた。
毎年の事なので慣れてはいるが、やはり気分が悪い事に変わりはない。
祝って欲しいわけではないのだ。ただ静かに過ごしたいだけで…ほっておいて欲しいだけで。
体調が芳しくないからと平然と嘘を並べ、一応の立場上引き止める有権者や親族を適当に丸め込み、中座したその後。
村の外れ辺りで気分転換でもしようと裏口を抜けた所で、綺麗な樺茶色と銀白色が目に入った。
先生とその養い子が、そろそろ嫌気がさして宴会場を抜け出してくる頃、と、俺の行動を予想して、張り込んでいたらしい。
読まれていた事を不快には思わない。寧ろ、自分を理解してくれているのが嬉しかった。それでも、それを素直に表現する事は、己の性格上…とてもじゃないけれど出来なくて。抜け出した後だったらどうするんですかと憎まれ口を叩くようにして問う、と。
『帰ってくるまで待ちますよ。晋助は、どうせ裏口を使うでしょう?』
―――そんな風に、いつもの笑顔で答えられた。
内心の喜びを覆い隠して脱力してみせると、ジッと黙って俺と先生のやり取りを眺めていた銀白色が、俺の手を掴んで無言で駆け出した。通い慣れた塾のある方向へと。
戸惑いの声を上げつつ後ろを振り返ると、先生が楽しそうに追いかけてきていて、抵抗する気が一気に失せた。
正直な所、彼らが自分に会いに来てくれた事が嬉しかったのだ。
宴会が終わる前に戻れば良い。そう思案し、俺はそのまま黙ってついて行った。

塾の室内へ入ると、美味そうな香りが鼻孔をくすぐる。
気分や機嫌が悪いと目に見えて食が細くなる俺の為に、銀白色が腕によりをかけて作った、素朴で質素だが美味な家庭料理の数々。それは、宴会場の豪勢な料理なんかよりもよっぽど、食欲をそそられるものだった。
先生と共にその手料理に舌鼓を打ち、用意されていた分を綺麗に完食する。談笑して寛いでいると、いつの間にか台所へと引っ込んでいた銀白色が、白くて丸い円形の“何か”を持ち出してきた。
新しい物好きな先生の差し金かと、確信にも似た気持ちを抱く。チラッと視線を向けると、『それは“ケーキ”というお菓子ですよ』と、そう。その時、彼はいつもより優しく、だがどこか悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
俺には、それが一体何なのか、解らなかった。
目を丸くしている内に、先生は食べ終わった食器を部屋の端に寄せていて。『俺がやります』と慌てて制止すると、先生は、『お客さんは座っていて下さいね。』と、有無を言わせない力強さをもって、ピシャリと反論を遮った。
銀白色は、何を考えているのか俺にすら読みとらせないほどに乏しい表情で、相変わらず黙々と作業をしている。よくよく見てみると、何故かその“けーき”とやらを台の上に置き、そこから少し離れた紙の上で、小ぶりの蝋燭の尻とその側面を、少しだけ削っていた。
その奇怪な行動に、俺はもう何が何だか訳が解らなくて、目を瞬かせる事しか出来なくて。―――先生はというと、『あぁ!直接食べ物に挿すんですもんね。銀時はお利口さんですねぇ。』と、自らの養い子を大層誉めまくっていたが。
銀白色のソイツは慣れもあってか、綺麗にそれらの言葉を無視し、素知らぬ顔で作業を続ける。
かつてコイツは、誉められると瞬時に顔を赤く染めて、慌てていた。それは俺から見てもとても可愛らしく、また、心が温まる光景だったというのに…、時の流れは残酷である。
そんなとりとめのない事を考えている内に作業を終えていたらしい銀白色は、いまだに続いていた誉め言葉の数々を『うるさい』の一言で一刀両断し、その言葉にめそめそし出した先生をも一切合財無視して立ち上がった。
そして、削り終わったその蝋燭を、“けーき”という菓子に、平等な間隔で挿していく。
『……先生…これは、一体…?』
『外国のね、文化ですよ。これは“誕生日ケーキ”といって、向こうでは誕生日を祝う時には欠かせないお菓子なんですって。こうやって、年の数だけ蝋燭を立てて、吹き消すんです。一度で消せたら、願いが叶うんだそうですよ。』
よく見ると、確かに。俺の年の数だけ、蝋燭が立てられていた。
“けーき”の傍らで、目にも止まらぬ速さで火を起こしていた銀白色は、手際良く蝋燭に火を灯している。
日のまだ出ている内から蝋燭を使う事も奇妙だったが、何より菓子だという物に刺さっている事もまた、奇妙であった。
そう、それは他に類を見ない程に、不思議な光景だった。
(だが…、悪くはない、寧ろ―――…)
晋助もお願い事してみましょうね、と。茶目っ気たっぷりにそう言った先生の言葉を、俺は素直に信じた。先生の言葉を信じずして、他の何を信じるというのか。
銀白色に差し出された“けーき”の上の蝋燭の炎を、初挑戦ながらも一度で吹き消してみせた俺は、切実に何かを願った。

あぁ、そうだ―――確か…。



(来年も、こうやって過ごしたいと、そう―――…望んだのだ。)







次の誕生日が来る前に先生が投獄されてしまったから、叶わなかったけれど。
―――どうあがいても、もう二度と、叶う事はないけれど。