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四谷 由里加
四谷 由里加
novelistID. 31889
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世界は何度でも立ちはだかる

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「……………ふぅ。やっとどっか行った。」

若干トーンを落とした声音で呟かれたそんな不穏な言葉が、僕の耳に、届く。静雄くん相手に泣き喚き、甲高くなっていた彼の声は、既に落ち着きを取り戻していた。
いつの間にか、静雄くんはこの場から姿を消していた。僕が思考の海に沈んでいる間に、宣言通り、代わりの花を採りに行ったようだった。

「…臨也く、ん…?」

流石に戸惑って、彼の名を呼ぶ。すると、彼は僕の腰に埋めていた顔をスッと上げた。
彼の目に涙なんてモノは、もはや存在しない。自分の顔が引き攣っていくのを、僕はどこか他人事のように客観的に捉えていた。

「あのねー。さいきん帝人さんといると、なにかとシズちゃんがくっついてきてうっとーしいから、おっぱらってみたんだ!」
「…え、っ…えぇ!?」

年に見合わないあくどい顔で、彼は高らかに宣言する。
(演技かやっぱり!そしてめっちゃくちゃイイ笑顔…!)
驚いた、といった風に、即座に口元に手を当てる。痙攣しそうになる口元の表情筋を、手を当てて覆い隠し、さり気なく解す為だ。
だってそうでもしないと、引き攣った顔のまま、暫くこの子のお守りをする事になる。聡い臨也くんにそんな顔で接しようもんなら、何が起こるやら予測不能だ。
折角、早くも歪んでねじ曲がりかけている気難しい彼が懐いてくれた、唯一の大人(まだ高校生だけど!)である僕が、そんな態度で接したら…もしかしたら“あの世界”の折原臨也ルートに直行かもしれない。それだけは何としても避けなければならない事態だ。
池袋の平穏の為にも、何より自分自身の心と生活と生命の平穏の為にも。

「まったく、あのたんさいぼーうましかはやっぱり頭が足りないよね。このオレがそんなヘマするはずないじゃない!なんのためにリュックせおってたとおもってんの?フフン!」

(凄いイイドヤ顔!)
泣きたくなった。何の為に僕は、大変な思いまでして子守りをしているのだろう。
答えは簡単。僕の人生とかその他諸々をあの世界のように終わらせない為だ!…でもなんだかこの子供を見ていたら、心底不安になる。
静雄くんはまだ大丈夫だ。情は、一応…わいているものと捉えて、まず間違いないだろう。いけすかない、気に入らない幼馴染として、だが。
幼馴染っていうのがもうただの他人じゃないから、今の彼は追いかけて殴ったり蹴ったりしようとはするものの、物を使ったりはしない。
ただこの子は解らない。だから、不安でしょうがないのだ。

「帝人さんにわたそうと思ってたのはこっち!」
「―――…あ、はは…、ありがとう…臨也くん…………」

(これが綺麗なのが、また……目に…染みる……)
受け取った花の香りを楽しむフリをして、熱くなった目頭を隠す。
折角やり直す機会が与えられたというのに、彼が再びあの状態に育ってしまったら本末転倒にも程がある。


神様……僕、ホントにこの人のコト、更生出来るのかなぁ…
――――この子の将来、ひいては僕の将来が、とても心配です。








世界は何度でも立ちはだかる









(あっ…後で静雄くん探しに行かないとな……)


















タイトル部分のお題は、【fisika】様よりお借りしました。
http://fisika.at-ninja.jp/index2.html