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「この夜に全ての想いを」1 : 謝肉祭~外伝(仏日)【改題】

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「……目が覚めたか、菊?
 うなされてたみたいだぞ。何か嫌な夢でも見たのか?」
 聞き覚えのある声……でも朦朧としてよく分からない。誰だろう?それに……ここはどこ?私はなぜ──
 微かに浮かぶ記憶を辿る。酔っぱらったアーサー達を夜道に見送って、それから……
「ああ、フランシスさん……どうしてここに?」
 そうだ。
 見慣れた長い金髪が、顔の周りを取り囲むように落ち掛かっている。優しい菫色の瞳。心配げにベッドに横たわる私の顔をのぞき込んでいる。
「私は……なぜここに?ここは……どこ?」
「……どうも飲み過ぎたみたいだな、菊。おまえらしくもない」
 フランシスは溜め息を吐く。
「何を言ってるんですか、フランシスさん。私は酔ってなどいませんよ」
 菊は普段よりもにこやかに微笑んだ。自分では気が付いていないのだ。それは外交用の笑顔だった。
「……無理するな、寝てろ」
 菊はフランシスの言葉にも構わずに起きあがろうとしたが、その時自分が一糸纏わぬ姿でいることに気が付いた。
「ああっ!これはどういうことですか、フランシスさん?!
 事と次第によっては、いくらあなたでも許しませんよ!」
「ほんとに覚えてないのか、菊?」
「何をですか?!」
 普段の彼らしくもない尖った声。
 フランシスはまた溜め息を吐く。今夜の菊は明らかにおかしかった。
 普段は自分の感情を押さえ込んでほとんど表に出さず、いつも外交用のスマイルを絶やさない慎ましやかで冷静な彼が、まるで傷ついた獣のように尖った目をして。
 もう一度溜め息を漏らすと、フランシスはベッドの上で体にしっかりと引き寄せたシーツを握り締める菊に、夜道で出会った後の事を話して聞かせた。

 出会ったのは本当に偶然だったこと。
 最初は冗談混じりでナンパのまねごとをしたが、気になることがあるというので、真面目に話を聞こうと近くのバーに入ったこと。
 話はフェリシアーノがアーサーに魔法を掛けられて女性に変身させられたというところから始まった。
 菊はひどくフェリシアーノの事を心配していたが、
「ま~たあいつの仕業か。まったくいくつになってもああいういたずらが止まないのは困ったもんだな」
 フランシスは軽く、いなした。
「あいつらの事なら心配要らないさ、ルイのヤツはなかなか認めたがらないが、元々フェリシアーノべったりだからな。あと一歩を踏み切るには、ちょうどいいきっかけだろ?」
「アルフレッドさん達にもそう言われたのですが、私は心配で──」
「ほんとに心配性だな、菊は!何をそんなに心配してるんだ?」
「それは……」
 菊は思わず言い淀んだ。いろんな考えが浮かんでは消える。
 まだ年若く血気盛んなルートヴィッヒが、実際には自分よりもうんと年長のフェリシアーノを受け止めてやれるかどうか。不注意な言動で傷付けはしないか。
「……ルイのことか?」
 菊がはっとしたように顔を上げる。
「あいつ意外とおっちょこちょいで、いきなり突飛な行動に出ることもあるから、まあ心配なのは分かるけどな」
 フランシスはそういって笑った。
「まあそう心配するなって。いざとなればこのお兄さんがフェリを優し~く慰めてやるさ」
「フランシスさん、ふざけないでください!私は真剣に──」
「ふざけてはいないさ、菊」
 口元は笑っているが、菫色の瞳は真剣な光を宿していた。
「もちろん知ってると思うが、フェリはああ見えて結構長く生きてるんだ、俺たちと同じ位にな。その間には色々な出来事も経験して来てる。
 今のあいつしか知らないお前には、ふにゃふにゃしてて、いかにも頼りなさげに見えて、心配になるのは分かるが、あいつはあいつで意外としっかりしたところもあるんだ。
 だから、俺はそんなに心配はしてないよ」
「そう……ですか」
 菊はそう言ってふと視線を落とした。
 自分ひとりの取り越し苦労なのか──つい人を自分と重ね合わせてしまうのは悪い癖だ──心の中でふとそんなことを呟く。
 フェリシアーノ君、あなたは優しそうに見えて、私なんかよりもきっとずっと強いのでしょうね。それに比べて、この私は──

「……どうした、菊?他にもまだ話したいことがあるんじゃないのか?」
 物思いはフランシスの声に中断され、菊はふと我に返る。
「いや、何でもありませんよ。ちょっと昔の事を思い出していただけです」
 できるだけ何でもない風を装い、薄く微笑を浮かべる。
「俺はもっと菊の事が知りたいと思ってる。だから、何か気になることか、話したいことがあるなら遠慮せずに話してくれないか?」
 そう言ってフランシスが差し出してきたのはハンカチだった。気づかない内に一筋の涙が菊の頬を濡らしていた。
「は、はは……嫌ですね、年を取ると涙もろくなって」
 ハンカチを受け取ると、菊はそう言って笑ってみせた。
「どうも今日は飲み過ぎたようです。そろそろお開きにしましょうか。明日はパレードを見に行くのだし」
 そう言って立ち上がろうとた菊の足元がふらついたのを見て、フランシスは素早く支えてやった。
「無理するな、菊。ホテルまで送っていこう」
「はは、大丈夫ですよ。このくらいのことで私が──」

 思い出せるのはそこまでだ。それではあの後、そのまま意識を失った私をここへ運んでくれたということか。我ながら何て無様な。
 菊は眉根を深く寄せると溜め息をついてフランシスの方を見た。
「……どうやらご迷惑を掛けてしまったようですね、フランシスさん。申し訳ありません、私としたことが──」
「思い出したか?」
 フランシスがほっとしたのもつかの間。菊の目つきがまたきつくなる。
「しかしですね、だからと言って、それとこれとは別です!私が意識を失っている間にこんな──私に何をしたんですか?」
「待ってくれ菊、それは誤解だ。まだ何もしちゃいない」
「まだ……とは?」
「確かに服を脱がせたのは俺だが、苦しそうだったから緩めてやろうと思っただけだ。おかしな気持ちなんか持っちゃいない」
 とりあえず自分のホテルまで連れて来て、ベッドに入らせたものの、菊がひどく苦しそうだったので、ベルトだけでも緩めてやろうと思ったのだと言う。
 だが、羽織を脱がせて帯を緩めたところ、その下の肌着もきつそうなひもで括られている。それを解くと、現れた下着がまたも実にきつそうに腰に縛り付けられている。それで結果的にはすべて脱がせることになってしまったのだと言うのがフランシスの言い分だった。