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B.R.C 第一章(1) 闇に消えた小さき隊首の背

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#04.託されたもの【B】



 訪れた八番隊と十三番隊の隊首二名に、十番隊の隊士たちは、いつも通り折り目正しい挨拶で対応する。そして、皆一様に首を捻った。

「あら、京楽隊長に浮竹隊長」

 ボキン、と厚い煎餅が折れる音が、陽気な女性の声と共に執務室に響く。
 飛び散った煎餅の欠片を気にすることなく、松本はソファに身を預けたまま「いらっしゃい」と二人を出迎えた。次いで、やや身構える。
 しかし、数秒の後、その構えを解いた。そして、他の隊士たちと同じく首を傾げる。
 いつまで待っても、聞き慣れた怒鳴り声が聞こえてこない。

「隊長は一緒じゃないんですか?」

 この場にすでに二人の隊長が居るが、松本が「隊長」と役職名だけで呼ぶのは彼女自身の上司、日番谷冬獅郎のみだ。
 他隊の隊首が訪れているということは緊急隊首会が終わったということだろう。しかし、自隊の隊首である日番谷は未だに帰還していない。真面目な彼が隊首会の後に寄り道など考えにくい。一番可能性が高いのは、浮竹や京楽といった馴染みのある同僚に足止めをくらっている事なのだが、その馴染みのある同僚がこの場に居るので、それはない。

「あ、もしかして、また何かやっかいな仕事押し付けられちゃったんですか? 隊長ってば」

 しばらく悩んで松本が出した答えは、やっかいな虚の退治を押し付けられ、その資料を受け取りに嫌々十二番隊を訪れている、というものだった。
 隊首の中で一番若いからか、はたまた押しに弱いからか、人が良いからか、苦労性だからか。日番谷はよく面倒な仕事を曲者揃いの隊首たちに押し付けられてくる。今回もそれだろうと踏んだのだが、どうやらそれも外れらしい。
 浮竹だけではなく、珍しく京楽までが神妙な顔つきでソファに座る松本を見下ろしている。

「どうかしたんですか? 二人とも。なんか怖いですよ?」

 張りつめつつある空気を感じ、松本はわざと軽い調子で言うが、

「乱菊ちゃん」

 京楽の声が、それを緩めることを許さなかった。

「悪いんだけど、十番隊隊士を修練場に集めてくれるかい?」

 いつもの調子、けれど有無を言わせない響きのある声に、松本はただ頷くことしか出来なかった。
 仕事の手を止めさせて、十番隊隊士を修練場へと集める。
 今は虚の討伐が行われているわけでもなかったため、非番の者たちと瀞霊廷の見回りに出ている者たちを除いた過半数の隊士が修練場に押し込まれることとなった。
 急な収集に、隊士たちはざわめく。
 上位席官が松本に問うような視線を投げかけても、松本は自分にもわからないと首を振るばかり。
 彼らの前に立つのは、日番谷ではなく他隊の隊長が二人。
 混乱が生まれ、徐々に大きくなって行くのを、松本は感じていた。

「来れる子たちは全員揃ったみたいですけど……一体何なんです? そんなに改まっちゃって」

 松本が皆を代表して問えば、

「……落ち着いて聞いて欲しい」

 隊士たちのざわめきを鎮めた後、表情を暗くした浮竹。

「日番谷隊長は、その位を剥奪された」

 なんとも簡潔な一言で十番隊の二百余の隊士たちを奈落に突き落とした。
 どの顔も皆信じられないと目を見張り、浮竹の言葉を理解するにつれて、顔色は徐々に蒼く染まって行く。

「どういう、事なんですか……? 隊長が、隊長の位を剥奪って……、じゃあ、あたし達の隊長はどうなるんですか?!」

 その声は震えていた。否、声だけではない。松本は氷水を浴びたかのように、全身を震わせていた。少しでも気を抜けば膝から崩れ落ちてしまうだろう。

「何で、どうしてっ! 隊長が何をしたって言うんですか?!」
「落ち着くんだ、松本副隊長」
「落ち着いてなんていられるはずがないじゃないっ!!」

 動揺、混乱、不安。そして、隊長を失うという恐怖に、松本は自慢の髪を振り乱して吠えるように声を荒げる。
 そんな彼女に続いて、他の隊士たちもどういう事かと問い詰めた。

「乱菊ちゃん、皆も。訳はこれから話すから、少し、黙って聞いてもらえるかい?」

 怒声にも似た声が溢れる中、不思議と京楽の落ち着いた声は掻き消される事無く隊士たちの耳を打ち、波のように徐々に喧騒が引き、しん、とした静寂が降りる。
 事の次第を、浮竹が簡潔に説明した。
 緊急隊首会の内容が、日番谷の隊長解任の報せであった事。
 その事は本人さえ知らなかった事。
 日番谷は瀞霊廷追放となる事。
 それが、中央四十六室の命である事。

「日番谷君は何もしちゃいないさ。山じいは、中央四十六室の意思としか言わなかったからね。つまりは、解任するに相当する理由なんてないって事さ」

 中央四十六室の気まぐれ。そう捉えたっておかしくはない。

「そんな……っ、そんな事で、あたし達から隊長を奪うって言うの?! そんなの、許せるはずがないじゃない!」
「副隊長、すぐに総隊長に談判を……」
「おそらく、無駄だろう。総隊長は……そして、日番谷隊長も、もう、ここには……瀞霊廷には居ない」

 三席の言葉に、浮竹が力無く首を振る。
 ここには居ない。それは、隊士たちを絶望に突き落とすには十分だった。
 言葉を失くし、力なく項垂れる。どこからか、すすり泣く声も聞こえて来た。
 彼は、居ない。敬愛する隊長は、もう居ない。帰って来ない。
 自分たちを時には叱咤し、時には誉め称え、時には優しく力付けてくれたあの声を聞く事は、もう、出来ない。
 絶望に沈む彼らの中、松本は身を翻した。

「何処へ行くんだい?」

 彼女が駆け出すよりも早く、その腕を京楽が掴み、引き止める。

「中央四十六室に、謁見を」

 発せられた声は、今までに聞いた事がないほどに冷たく、鋭い。

「総隊長がいらっしゃらないなら、その命令を下した張本人、中央四十六室に直談判するしかないじゃない!」

 離して、と言葉にすることなく、松本は掴まれた腕を大きく振った。しかし、京楽の武骨な手は離れない。

「ダメだよ、乱菊ちゃん」
「どうして! 副官が、自分の隊長を守ろうとして何がいけないんですかっ!!」
「落ち着きなさいよ。僕は、この手を離す訳にはいかない。それが、日番谷君の意思だからね」

 日番谷の名に、松本は振り回していた腕を止めた。

「松本副隊長、日番谷隊長から頼まれた伝言だ。彼の言葉そのままに伝えるよ」

 振り返ることなく俯く松本の背に、浮竹は預かって来た言の葉を、ゆっくりと紡ぐ。

「『早まった行動はするな、あいつらを頼む』」

 浮竹の声に、日番谷の声が重なって聞こえた気がした。
 日番谷は、松本が自分のことを聞いた時に、どう行動するか粗方予想がついたのだろう。それを戒める言葉と、その後も先走った行動をとらないようにするための頼み事を、日番谷は松本に残した。
 あいつらを―――十番隊を頼む。
 それが日番谷の意思。
 自分を追うのではなく、残った隊士たちを守れと、それが日番谷の願い。
 長い間共に在った彼の言葉を、松本は読み違える事無く、確(しか)と受け取った。

「……酷いです、隊長」

 そんなお願いをされたら、追いかけられないじゃないですか―――。