二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

B.R.C 第一章(1) 闇に消えた小さき隊首の背

INDEX|7ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

#05.包囲【B】



 十番隊が隊首を失ってから二カ月が経った。
 瀞霊廷を永久追放されたとしても、その後の行き先を誰も知らないとしても、彼はどこかで生きている。生きている限り、望みはある。一時期酷い有様であった十番隊の隊士たちを、松本はそう励まし、二カ月経って、何とか精神的な回復が徐々に見られて来た。
 そんな彼らを見て、浮竹と京楽は、日番谷の追放先が流魂街ではなく虚圏であることを伏せて正解であったと頷き合う。
 また、松本の言葉にようやく回復が見え始めた十番隊の隊士たちに、真実を告げる事が出来る隊長など居なかった。
 日番谷が虚圏に行った事実を知って、どれほどの者が希望を持てるだろうか。
 きっと、虚圏のことを告げていれば、彼らは今よりも酷く絶望していただろう。
 日番谷一人が抜けたところで、瀞霊廷には然程変化はなかった。十番隊が引き受けていた事務仕事が他隊へ配分されたおかげで仕事が増えたという隊長は居るだろうが、当事者である十番隊隊士たちを除いて、多くの者たちは何ら変わりない日常を過ごしていた。
 中央四十六室による謎の呼び出しも、まだ続いている。
 つい三日前に、五番隊五席が呼び出されたという話も、初めの頃に比べずいぶんと早くに収まった。
 中央四十六室による呼び出しは、不可思議なことではなくなり、「またか」と言える程に死神たちの日常に食い込んで来ていた。
 五番隊五席を含め、ついに呼び出された人数は三十人を超えた。それは、三十人が「消えた」ということと同義。
 日番谷の追放と、繰り返される呼び出しに、死神たちの雰囲気は重く暗いものへと変化して行き、どんよりと覆いかぶさっている。

「中央四十六室の呼び出しに、次は誰だと席官たちは怯えてやがるし、次はどの隊長が追放されるかって噂する奴らはそこかしこに居やがる。そんな話ばっかしてんじゃ、そりゃ暗くもなるだろうよ」

 今は昼時だ。
 値段は安く、量は多いと、死神たちに人気の食堂で、阿散井は周りから聞こえてくる聞き慣れた噂話に、苛立ち混じりにぼやいた。
 豪快に食事を口に含む阿散井の向かいには吉良と雛森という、同期の副隊長が座っている。

「あ、阿散井君……」
「ああ?」

 少し焦りを含んだ吉良の呼び声に顔を上げれば、その隣で俯いている小柄の少女に気が付いて、

「あ―――……」

 気まずげに後ろ髪を掻いた。
 日番谷と雛森は幼馴染だ。幼少時代は同じ家で生活を共にし、姉弟のように育ったらしく、彼が隊長となった後も何かと世話を焼こうとして空回っている雛森の姿はよく見る光景だった。
 雛森は、まだ日番谷を失った傷を抱えている。身近な存在である分、阿散井たちよりも傷は深いだろう。

「シロちゃん……」

 そう呼んで怒る彼の姿は、もうない。
 もう何度零したかも分からない涙が、じわり、浮かぶのを感じて、雛森は膝上の拳をいっそう強く握り締めた。

「もう、ヤダよ……。河野(こうの)さんも連れて行かれちゃって……、どうして? 何で……っ」

 どうして。
 何で。
 それをこの半年近い間に、一体何人の者が何回繰り返し口にしたことだろう。

「雛森くん……」

 かける言葉が見つからず、吉良は名を呼ぶに留まった。

「あー……、そろそろ出るか」
「そ、そうだね。昼休憩も、もうすぐ終わってしまうだろうし」

 阿散井と吉良はすでに食べ終わっており、雛森はと言えば、箸を置いたきり手をつけようとしない。
 昼休憩の時間もあと残すところ三十分となり、今から食堂を出ればちょうどいい頃合いに執務室に着くだろう。時間的にも、話の流れ的にも、この辺りで切り上げた方が良さそうだ。

「うん……」

 小声が返り、阿散井も吉良も少しばかりほっとする。
 席を立って勘定を済ませ、各々の隊舎へ向かう道中。
 取るに足らない雑談を交わし、互いに残りの業務時間を思って励まし合い、別れる。それが常だ。

「あぁ? 何だ、てめぇら」

 しかし、そんな日常はたやすく打ち壊される。
 いくつ目かの角を曲がったところで、阿散井たちは突如三人の男に囲まれた。男たちは、三人を中心に三角形を描くように立っている。
 彼らの服装は刑軍のものに酷似していたが、刑軍とは反対に服装は白を基調としている。身を隠すのに相応しくない色を纏っていることから、彼らが刑軍ではないことが察せられた。

「三番隊副隊長吉良イヅル、五番隊副隊長雛森桃、六番隊副隊長阿散井恋次だな。大人しく我々と共に来てもらおう」
「どういう事か説明してもらえるかな? それに、僕たちは副隊長だ。ついて行くにしても、隊長に一言断りを入れたい」
「その必要はない」

 吉良の言葉を、男達は素気無く切り捨てた。

「何故?」

 問えば、隠された口元が弧を描いたのがわかった。

「これから行く所に、貴様らの隊長とやらも居るだろう」
「それに、副隊長であろうが、隊長であろうが、我々に逆らうことは許されない」
「それって、どういう事ですか?」

 自分達が優位であると絶対の自信を持っている様子の男たちに、雛森が訝しげに眉根を寄せる。
 三人の正面に立つ男は、揚々と名乗ってみせた。

「我々は中央四十六室の者だ」

 瞬間、阿散井たちは氷を飲んだかのように身が冷えるのを感じた。

「中央四十六室、だって?」
「嘘を吐くんじゃねぇ! そんな奴が禁踏区から易々と出て来るもんかよ!」

 吉良は顔を青くし、阿散井が吠える。雛森は手で口を覆い、驚きと怯えの混じった瞳で正面の男を見上げていた。

「そう思うのなら勝手にすれば良い。ただし、我々に逆らった後、己が隊の者たちがどうなるかな」

 中央四十六室は最高司法機関。彼らの手にかかれば、隊一つ潰すことなど容易(たやす)いだろう。隊士全員を処刑の場に引き出すことだって、彼らには雑作も無い。
 吉良と雛森はぐっと口を閉じ、阿散井はギリリと奥歯を噛み締めた。

「下手な抵抗は止めておきたまえよ」

 顔を隠す布の奥で、彼らは嘲笑を浮かべ、三人を引き連れて歩き出す。
 残りわずかとは言え、まだ昼休憩中だ。その光景は幾人もの死神の目に留まり、彼らが去って行った後、死神たちは「大変だ!」と騒ぎ散らして同僚たちの元へと見聞きした事を伝えに走った。