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煙を燻らす男達

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 箱から一本取り出そうとしたら、空だった。
 ここで、コンボイは我に帰った。無意識にタバコを探っていたのだ。
「む……」
 コンボイは、空の箱を握り潰して、考え込んだ。最近、一箱を消費するペースが早くなっている。
(強い意志を持てば、必ず、止められるはずだ。だが……)
 目の前の机には、目を通さなければならない資料が山と積まれている。乗り越えなければならない試練もまた、コンボイの前に、山となって立ちふさがってる。今、この、ささやかなストレス解消を止める決意は、なかなか持てなかった。
 引き出しから、新しい箱を取り出して、もてあそぶ。封を切るか、それとも、もう少し我慢するか……。
「コンボイさん」
 司令官室のドアの向こうから、声が聞こえた。
「コーヒー入れたんだけど、どう?」
「ライノックスか。ちょうどよかった。入ってくれ」
 自動開閉のドアが開くと、マグカップを持ったライノックスが、部屋に入って来た。
 仕事机の脇に備えられているサイドテーブルに、カップを置く。
「はい、これ。少し、根を詰め過ぎてるんダナ。休憩した方がいいよ」
「ありがとう」
 タバコの箱を置き、代わりにマグカップを取る。口を付けると、蠱惑的な香りと苦みが、体に染みるようだ。美味い。
 ライノックスは、ふと、コンボイの置いたタバコの箱を手に取った。
「……止められないのかい?」
「うむ……なかなか、ふんぎりがつかなくてな。体に悪いと分かってはいるんだが」
「こういうのは個人的な嗜好だからね、あんまりとやかく言うことでもないけど……キミの吸い方は、あんまり感心しないんダナ。吸う事で、ストレスを増やしてるように見える」
「……なるほど」
 コンボイは、手に持ったコーヒーに、視線を落とした。コーヒーの表面がゆらゆら揺れるように、コンボイの心も、揺れていた。やはり、止めた方がいいだろうか?
「もし、止める気があるのなら、禁煙のメソッドを組んであげるよ?」
 控えめな調子で、ライノックスが言った。コンボイは、視線を上げる。
「こんな時だからメンタルケアは大変だけど、きっぱり止めるんなら、始めるのは早い方がいい。習慣になる前だったら、きっとそんなに苦労しないんダナ」
「……ありがとう、ライノックス」
 コンボイは、再びコーヒーに目を落とした。
 その時。
「おい、コンボイ、いるんだろ!? 入るぞ!」
 声と共にダイノボットが入って来た。ライノックスの巨躯とダイノボットの長身が、あやうくぶつかりそうになる。
「おっと、危ないんダナ」
「ダー、気をつけろ!」
「気をつけるのはそっちの方だよ。何なの、慌てて」
「この、司令室のことだ。聞いたぞ? ここは喫煙OKだってな!」
 コンボイとライノックスは、顔を見合わせた。
「なんで今まで隠してやがった? 俺がこの部屋を乗っ取るとでも思ったか? 馬鹿言っちゃいけねえ、俺は……紳士だぜ」
「その言葉は俄には信じ難いが……別に隠していた訳じゃない。わざわざ説明するほどのことでも無いと思っていただけだ。ダイノボット、それでお前は、一体何が言いたいんだ?」
 コンボイが水を向けると、ダイノボットはニヤリと笑ってみせた。
「なあに、簡単なことさ。俺とお前……愛煙者同士でせいぜい仲良くやろうぜ、と、まあ、こういうことだ。たまに……ほんのたまにだ、今使ってる場所まで行く時間さえ惜しいとか、天気が悪くて使えないとか……そんな時に、ここの軒を使わせるくらい、司令官様には何でもないことだよな?」
「む……」
「俺ァ、全部知ってるんだ。もう、腹立ちまぎれに禁煙を勧めてこなくったって、いいんだぜ?」
「……待て」
 勢い込むダイノボットを制して、コンボイは立ち上がった。
「確かにこれまで私は、時々タバコを吸っていた。この部屋でな。だが……」
 手に持っていたコーヒーの残りをぐっと飲み干すと、ダイノボットに向かって、きっぱり、言った。
「……私は、禁煙をするつもりだ」
「決めたのかい!」
「なん……だと?」
 ダイノボットの表情が、変わる。
「ちくしょう、あンのドブネズミ、そんなこたァ一言も言ってなかったぞ!」
「……情報源は、ラットルか……」
「ラットルが知る訳ないよ。コンボイが禁煙を決めたのは、今、この瞬間なんダナ」
「な……!」
 言葉を失うダイノボットに、コンボイは続けた。
「そういうことだ。私はこれからタバコを止めるために、最大限の努力をするつもりだ。喫煙所の無いお前の要求も分かるが、ここでタバコを吸ってもらっては困る。ここは……喫煙場所である前に、司令官室だからな」
「……ダー……」
 呆然とするダイノボットを見て、コンボイは、ぽんと一つ、手を打った。
「そうだ!」
 ダイノボットは、びくりと向き直った。
(……嫌な予感がするぜ)
 予感は、正しかった。
「ダイノボット、お前も一緒に、禁煙メソッドに参加しないか!? タバコを止められれば、そもそも、場所に困ることもないだろう?」
「それはいいね。一人より、同じ境遇の仲間がいた方が、励みになるんダナ」
「ちょっと待った! 一体、俺がいつ、禁煙してえなんて言った!?」
 嫌な汗を背中に感じながら、ダイノボットは内心、呟いた。
(もしかして、薮を突ついて、蛇ならぬ本気のゴリラを招いちまったのか……?)




 結局、状況は、前とほとんど変わらない。
 ダイノボットは一人、非常階段の踊り場で、タバコをふかす。
 ただ、喫煙については、周りが口を出さないようコンボイに固く申し入れたので、禁煙の勧めに悩まされることだけは無くなった。
 たまに、ラットルが顔を出して、吸い殻をねだっている。
作品名:煙を燻らす男達 作家名:スガ